分かりにくいゴルフルールの用語「プリファード・ライ」と「リフトアンドクリーン」について学ぼう!
先日の11月12日に行われたLPGA(日本女子プロゴルフ協会)トーナメント「伊藤園レディス」の第2日目。上原彩子選手がローカルルールの勘違いによる“68打罰”を受けたという驚きのニュースを耳にした方も多いと思います。そのあまりにも多い罰打数に、つい目がいきがちですが、ゴルファーの皆さんに注目していただきたいのは当日に適用されたローカルルールの内容です。
前日の大雨によりコースにぬかるみが生じ、コースコンディションをフェアに保てないという理由から、LPGAは「フェアウェイやカラーにある球は罰打なしで拾い上げて拭き、元の位置にリプレースできる」というローカルルールを適用しました。こうしたルールはトーナメントでもコース状況によって適用されることはよくあり、珍しいものではありません。
しかし、上原選手は「ボールを拭いた後に1クラブレングス以内にプレースできる」と勘違いしてプレー。18ホールのうち、15ホール(19回)にわたりこの行為を行ったため、それぞれに2打罰を課せられました。さらにこの15ホールで過少申告とみなされ、さらに各ホールで2打罰。トータルで68打罰というとんでもないペナルティが課せられてしまったのです。
上原選手は現在、米ツアーに挑戦中で、米ツアーではこのようなケースで「1クラブレングス以内にプレース」できることが多く、勘違いしてしまったそうですが、この時にキーワードとして使われるゴルフ用語が「プリファード・ライ」と「リフトアンドクリーン」です。
“今回のローカルルールは「リフトアンドクリーン」という処置で、上原選手は米ツアーでよく使われる「プリファード・ライ」と勘違いしてしまった”というものですが、これは間違いではありませんが、正確とも言い切れません。こうしたゴルフ用語の誤用が、何度も繰り返されるトーナメントでのトラブルに繋がっていると思わざるを得ないのです。
そこで今回は、「プリファード・ライ」と「リフトアンドクリーン」の正しい意味をご紹介したいと思います。今までなんとなく腑に落ちなかった方でもこれですっきりしてください!
プリファード・ライとは?
まず言葉そのものの意味を把握しておきましょう。
「プリファード・ライ」=Preferred lieとは、直訳すると「好ましいライ」です。ライとは「ボールが静止している状態や位置」という意味ですので、プリファード・ライとは「適正(フェア)な条件にボールが置かれている状態にする」というような意味だと思えばよいでしょう。
つまり、大雨などの後でコースコンディションが悪く、ボールが止まった位置がフェアウェイやラフにもかかわらず、ぬかるんでいたりする“悪い条件”であった場合、「プリファード・ライ」を適用することによって、状況を改善することができるのです。
このように「プリファード・ライ」とは、=フェアなライの条件のもとでプレーすることを前提としたゴルフ用語です。しかし、気を付けなければならないのは、その処置の仕方です。まだこの「プリファード・ライ」という言葉の中にはボールの処置自体(動かして良い範囲や方法)は含まれていません。
ですから競技のローカルルールとして適用する際には、プリファード・ライを適用したうえで、「6インチ以内にプレースすることができる」「1クラブレングス以内にプレースすることができる」などの注釈が必ず必要です。この処置の内容についてはコースコンディションの具合や、競技委員の決定によって都度、異なりますので注意してください。
例えば上原選手が言うように米ツアーでは1クラブレングス以内という範囲で適用している場合もあれば、6インチ以内というようなケースもあります。また、元の位置に戻す(リプレース)も処置のひとつとして考えられますが、「プリファード・ライ」という言葉を使用している時点で、動かしてOKになるであろうという“含み”があることがポイントですので、(動かして良い範囲はまだ決まっていないけれども)フェアな位置へのプレースになるということを覚えておいてください。
※プリファード・ライはフェアな条件にすることが目的ですから、拾い上げた際にボールを拭く行為は認められています。
リフトアンドクリーンとは?
では次に「リフトアンドクリーン」について考えてみましょう。
こちらも直訳すると「リフトアンドクリーン」=Lift and cleanとは、「持ち上げてきれいにする」という意味です。つまり、リフトアンドクリーンとは「ボールを拾い上げて拭いてよい」という行為を示すゴルフ用語です。
しかし、「リフトアンドクリーン」という言葉だけでは、ボールをその後どのようにすれば良いかの説明はされていません。ですからこちらも必ず競技で適用する際には「リプレースすることができる」「6インチ以内でプレースすることができる」「1クラブレングス以内でプレースすることができる」などの注釈を加えることが必要です。
ここでの注意点は「リフトアンドクリーン」という言葉の中には“フェアな条件になる位置に置き直す”行為という意味は含まれていないということです。あくまでも、ボールを“拾い上げて拭く”行為を認めているだけになります。ここが「プリファード・ライ」との違いでしょう。
リフトアンドクリーンはリプレース?
さて、大まかに「プリファード・ライ」と「リフトアンドクリーン」の意味とその違いがお分かりになったと思いますが、「リフトアンドクリーン」の場合は、リプレース(元の場所に置き直す)しなければならないと思い込んでいるプレーヤーがいらっしゃいます。
これは、「プリファード・ライ」がボールを動かして良い(プレース)ルールだから、「リフトアンドクリーン」は元に戻す(リプレース)ルールだろうという解釈だと思います。実際、そのように表記している記事も目にしますが、ここまで読んでいただいた方には、“違う”ということがお分かりいただけるのではないでしょうか。
どちらの用語にもボールを動かして良い範囲や方法については決まっておらず、必ず別に定め、注釈を加える必要があります。この部分がプロのトーナメントでも曖昧になることがあり、それぞれのプロが誤解をしているのです。
「プリファード・ライだから、6インチまで動かして良いのだな」
「プリファード・ライだから、1クラブレングス以内でプレースだな」
などというものです。これは勝手にプリファード・ライという用語を過大解釈しているのです。また、「リフトアンドクリーンだから、ボールは必ずリプレースだな」というのも正解ではありません。
プリファード・ライはライの条件に関するゴルフ用語であり、リフトアンドクリーンはボールの取り扱い(拾い上げて拭く)について述べているゴルフ用語なのです。結果的に大変よく似た行為を持つゴルフ用語ですが、主語が違うということを理解していただければと思います。
プロは言葉の意味をよく理解し、そしてルールをしっかりと把握していなければなりません。「勘違い」は誰にでもありますが、プロである以上、アマチュア以上にルールは知っておかなくてはなりません。一度のミスは許されても、今後このようなミスが無いようにしてほしいですね。
簡単ですが、「プリファード・ライ」と「リフトアンドクリーン」についてご説明させていただきました。
日本ツアー(男子・女子)、米ツアー(男子・女子)にそれぞれが慣習的にプリファード・ライやリフトアンドクリーンの処置方法(米ツアーでは1クラブレングス以内が多く用いられ、日本ではリプレースが多い等)を決めているので、違った環境、もしくは慣習とは違った処置方法が定められた場合、プロでさえ混乱し、間違った処置を行います。
しかしその言葉の意味さえ理解しておけば迷うことはありません。是非、覚えておいてください。
おわりに
こうしたルールの間違った解釈によるトラブルが女子プロに多いのは何故でしょうか。それは女子プロだけが勉強不足という訳ではなく、ツアーのシステムにも原因があると思います。
これは私見ですが男子ツアーでは選手が何らかの複雑なルールを適用しようとするケースでは、その都度、競技委員を呼んで確認していることがとても多いように感じます。自分たちで判断せず、必ず競技委員の裁定を仰いでいるのです。間違いは格段に減りますが、スピーディーさにはやや欠けるかもしれませんね。
それに対して、女子ツアーでは同組のマーカー役のプロに確認を得て、どんどんプレーを進めていく場面が多く見受けられます。これは絶対にそうしなければならないというものではないのですが、女子ツアー特有の雰囲気がそうさせているのではないかと思っています。
自分たちで判断し進めていきますので、進行面では大変スムーズです。しかし、時にプロたちのルール解釈の勘違いから大きなトラブルに発展することがあります。観客にルール違反を指摘されることもありますね。ですから女子プロに多く発生しているように見えるのではないでしょうか。プロのルールへの理解が深ければ、こうしたトラブルは防げますのでプロの方ももっと意識してもらいたいと思います。
また、プロだけではなく、ルールを決める側に問題があるケースも実はあります。明確な処置を決めないまま(その不備に気づかないまま)選手に通知することもあり、混乱を招いているのです。
ルールが曖昧なのですから、選手が正しい処置ができるはずもありませんよね。ですから選手ばかりが悪いということではないのですが、どちらにせよルールを正しく理解することが、ルール違反を防ぐ最大の行動です。
これはプロやアマチュア、もしくは競技を支える側にも共通して言えることです。アマチュアゴルファーの皆様も、一度ゴルフで使われる曖昧な用語について考えてみるのはいかがでしょうか。