ゴルフは広大なエリアに広がるゴルフコースを、順路に従って冒険するようなゲームです。

想像してみてください。他のスポーツのように審判員がその間、ずーっと付いて回ってくることを。ゴルファーの多くは人に見られながらプレーすることが苦手ですし、なんだか開放感も半減して嫌な感じがしてきます。

ゴルフの特徴である「プレーヤー自らが審判」という決まりは、知らない内にゴルフの魅力の一部になっているのです。審判がいるゴルフを想像してみれば、「そんなのゴルフじゃない!」と思う人が圧倒的に多いでしょう。

しかし、「ゴルフルールは面倒臭い」と考えている人は圧倒的多数であることも事実です。勉強するのが後回しになって、適当なルールを間違って覚えているベテラン・ニセ・ゴルファーもたくさんいます。

こういう悲劇は反面教師として、実は簡単にゴルフの審判になれるという秘訣を説明したいと思います。

元々のゴルフルールは適当だった

Peter Thompson

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1744年に、世界で初めてゴルフルールは明文化されました。

「呪われた13条のゴルフルール」とかいわれますけど、ゴルフがプレーされてきた歴史は、少なくともそれより300年以上前から続いてきました。その間は、ゴルフルールは存在しなかったのでしょうか?

ゴルフというゲームは、元々対戦型のマッチプレーがベースでした。目の前の相手と自分だけの勝負ですから子供の遊びの延長で、その場その場で決まりを作れば良かったのです。

双方が納得すれば、ゲームは成立します。そういうことを重ねている内に、原型となるゴルフルールは作られていきました。

現在でもマッチプレーのゴルフルールでは、ゴルフの本質を曲げるような事例を除いて、対戦相手と自分が正しいルールを知らないで間違ったルールを採用してしまっても、双方が納得していれば、そのままお咎め無し!という運用が認められている部分もあるのです。

自らが審判だという極めて珍しいゴルフの特徴は、このマッチプレーという対戦型ゲームでゴルフが育ったという伝統の継承でもあるのです。

日本の多くのゴルファーは、生涯マッチプレーを経験しないのでわからないのかもしれませんが、初心者にとって、マッチプレーはゴルフの面白さをより楽しめる良い点がいくつもあります。

ホールごとの勝ち負けで進行していきますので、例えばOBを連続で出してしまったり、ミスショットが止まらないホールは早々に「負けました」と降参してしまえば、次のホールでリフレッシュした新しい勝負が始まります。

数えるのも大変だという大叩きのホールで、やめたくともやめられない泣きそうな気分になることは、ゴルファーなら誰でも経験したことがあるものです。マッチプレーであれば、自らの判断でやめられるのです

マッチプレーは対戦相手との取り決めがルールでしたから、プレーヤーの自由度が高いのです。その背景には、ゴルフ黎明期のゴルフコースの環境がありました。

当時のゴルフコースは、ゴルフコースとして独占的に使用している土地ではなく、荒れ地で自然発生的にゴルフをしているに過ぎませんでした。徐々にゴルフコースとして占用地になって整備されても、重機などで管理する時代は遙か未来のことで、羊に草を食べてもらって打ちやすいエリアを作ったりする程度で、整備できるのは本当にわずかな面積だったのです。

トゲがあってボールを取ることもできない低い木々が群生していたり、草がボウボウに伸びて入ることもままならないエリアがあったり、川や道路もありました。マッチプレーであれば、そういうトラブルになれば、降参すれば成立したのです。

ゴルフルールが明文化されたのは、ゴルフをする人が増えて、「個別の対戦ではなく、多くの人たちと同じ条件で対戦したい」というゴルファーの願望が出てきたからです。

ストロークプレーなら、数十人と一気に短期間で勝負ができます。問題は「降参すれば済む」という便利な方法がとれないことです。

ボールがみつからなかったり、なくなってしまったり、川に入ったら……。ストロークを重ねて、全ホールをホールアウトするということはマッチプレーではあり得なかったので、ゴルファーたちは知恵を出し合ったのです。

ゴルフルールの心

PGA TOUR - 2006 Ford Championship at Doral - Second Round

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何があっても、誰であっても、そのホールをホールアウトして最後までプレーできるようにするということで、ゴルフルールは育ってきました。先人ゴルファーたちは知恵を出し合って、ストロークプレーでもゴルフが楽しめるようにしたのです。

ゴルフは、あるがままにボールを打って、連続したストロークでホールアウトすれば成立します。しかし、途中で色々なことが起きるのがゴルフであり、面白さでもあるのです。

そういう中で、いわゆる“あるがままに打てないトラブル”を解決するために最初のゴルフルールは発達していき、その後、ボールを動かしてしまったりするような偶然のトラブルの対応を加えていきました。

つまり、ゴルフルールはゴルファーを助けるために生まれ、現在でも機能し続けているのです。

『全てのゴルファーに悪意はない』というのが、ゴルフルールの基本の基本です。これを“ゴルフルールの心”と呼んでいます。ゴルフルールを勉強すると、悪意で行った事例について当てはまるものがないということがいくつも出てきます。

例えば、動いているボールを2度打ちのように打ってしまうのは、偶然のトラブルです。これは、1打罰だということがすぐにわかります。しかし、短いパットを外して、動いているボールを打ってホールアウトさせてしまうようなケースは、どの罰則になるのかがわかりづらいのです。

つまり、ゴルファーを助けるためのゴルフルールは、ゴルファーとはいえない振る舞いについては助けの手を延べないのです。

ちなみに後者の場合、2打罰で済ませるか、競技失格を採用するのか、両方の判断ができるようになっています。規則でセーフだからやっても良いとか、罰を払えば良いとか、ギリギリ狙いの悪人は、ゴルファーにはなれないのです。

こうなってくると、第1章が『エチケット』である意味が、より重くなってきます。善人たちだけで、楽しくゴルフをする楽園がゴルフコースだと、ゴルフルールの心は教えてくれています。

現在のゴルフルールの条項は、34あります。残念ながら、一部は悪意があるゴルファーを排除するために加えられたものもあります。

自分というゴルファーを守るために生まれ育って、先人たちの想いを感じることができるゴルフルールを一度も見たことがないなんて、悲しいことです。そして、もったいないことです。

日本語版のゴルフ規則は日本ゴルフ協会が発行していて、2016年度版は600円で買えます(ネットでも日本ゴルフ協会のHPで買うことができます)。文庫本サイズです。ゴルフルールには、ゴルフ規則を携帯するべきだと明記されています。審判なので当たり前です。

キャディーバッグに入れておけばお守りになるだけではなく、トラブルの時に慌てずに済みます。後ろに索引もありますので、何度か使ってみればコツもわかると思います。わからない言葉を、辞書で調べるのと同じです。実に簡単です。

また、2016年度版にも、文頭に「ゴルフ規則の簡易ガイド」という、よく利用するゴルフルールが図解入りでまとめてありますから、第1章のエチケットと一緒に、そこには目を通しておくと良いでしょう。

これで、自ら審判であるゴルファーの誕生です。ゴルフ規則を携帯してプレーし、辞書のように調べるようにするだけで十分です。それでもわからないことも、ゴルフでは時々起きます。それは、宿題として調べれば良いのです。

日本ゴルフ協会のHPでは、4000円もするゴルフ裁定集の中身を誰でも見ることができるようにしてくれています。また、スマートフォンやタブレットでも使用できるゴルフルールのアプリも売られています。

僕は、年末にゴルフ規則を10冊程度買います。1冊は自宅で調べる用。1冊はキャディーバッグの中に。残りは、プレゼント用です。志を感じた初心者ゴルファーに、「ようこそゴルフの世界に」と送っています。

気軽にできる選択肢が色々とあることは、本当にゴルファーとして幸せなことだと思うのですが……。

こんなに恵まれているのに、ゴルフルールを一度もちゃんと見たことがないのにもかかわらず、知ったか振って“ゴルファーのフリ”をしている人たちがたくさんいるのです。

ゴルフが難しくて悩んでいる人の何割かは、そのような怠慢を許さないゴルフの神様が与えた罰を受けているのかもしれません。

ゴルフを始めたばかりで、ゴルフが面白いとわかってきた人にも、何年もゴルフをしてきてゴルフの虜になっている人にも、免許を取るつもりでゴルフルールを身近にしましょう。簡単なことで、何倍もゴルフが楽になるのは保証します。