見つかる、楽しむ、あなたのゴルフライフ。

ツアーバンはプロゴルファーを支える工房だ!

  • 2017.02.28

ミズノのツアーバンを取材しました。ツアーバンが通称ですが、ミズノではワークショップカーと呼びます。

トーナメント会場に行くと、練習場の近くや駐車場に色々なメーカーの大型トラックが並んでいるシーンを見かけます。各ゴルフメーカーがプロゴルファーを支えるために派遣している動く修理工房です。

なんとなく知っているつもりのツアーバンの仕事を知れば、自分のゴルフのヒントになるかもしれません。プロゴルファーはどんな調整をしているかなど、色々と聞いてきました。

最先端は大忙しで日本中を巡る

mzwc002

ツアーバンは、ゴルフ修理工房をそのまま車の中に設置できるように改造をした車です。ミズノの場合は、ワークショップカーという名称なので、以後、ワークショップカーと書くことにします。外観はミズノブルーで、目立ちます。車内は2名から3名のクラフトマンが修理を同時にできるように作られています。

ミズノのワークショップカーの中で取材に応じてくれたのは、マイスターの女部田(おなぶた)真弘さんです。最初に聞いたのは、トーナメントがある週のスケジュールです。トーナメント会場にいくと予選日に最もたくさんツアーバンが来ていて、本戦になると徐々に車が少なくなっていく印象があったからです。

プロゴルファーのクラブがラウンド中に破損した場合、普通に使用しての破損であればルールで修理することが認められています。予選日であれば、多くの場合で、他のスタッフがクラブを運んで、大急ぎで修理し、ラウンド中に間に合ったというような美談がありますが、最終日だとツアーバンが会場を出た後だったので、そのままプレーをしたということになることも耳にします。

トーナメントのある週のワークショップカーは、月曜日に会場に入り、火曜日から木曜日まで稼働して、木曜日の午後には次の会場に向かって移動するというのがスケジュールになるそうです。ミズノの場合、男子ツアー用に1台、女子ツアー用に1台、アマチュアとイベント用に1台の3台が稼働しているそうです。正直に書くと驚きました。もっと台数があると思っていたからです。

男子ツアーは若干余裕があるかもしれませんが、女子ツアーはシーズンに入れば毎週のようにトーナメントがあり、北海道から沖縄まで、トーナメント会場は日本中を東へ西へ大移動になります。それを1台で回るのですから、木曜日に移動して、月曜日に次の会場に着くというスケジュールには納得です。

ワークショップカーは、原則として契約選手をサポートするのですが、契約していないプロゴルファーへのサポートもするそうです。ミズノのクラブに興味があって使わせて欲しいというプロゴルファーが訪れたり、普通に調整をお願いされることもあるそうです。

いずれにしても、情報交換を重ねて、ツアープロたちの要望や動向を感じ取って、開発に繋げるのも、ワークショップカーの仕事の一つなのです。

プロが頼む修理のナンバー1は?

mzwc004

この日はイベントのデモンストレーションでボールを打つために契約プロゴルファーが来場していたので、そのプロのキャディーバッグがあるだけで、装備は最小限だったようで整理整頓されていました。

基本的な修理は全て、ワークショップカー内でできるように、あらゆる機材が設置されています。メンテナスを終えて、トーナメントが始まる春を待っている状態でした。

「プロゴルファーが頼む修理で、最も多いのは何ですか?」と質問しました。答えは意外なものでした。

「シャフト交換です」

トーナメントで戦うプロは、常に新しい情報に敏感で、とりあえず試す、というプロゴルファーが多いからだと説明がありました。シャフトは、プロトタイプが次々に作られていて、ルールに縛りがないので、すぐにトーナメントで使えることもシャフトを交換して試す一因のようです。

個人的には、最も多い修理はグリップ交換なのかと思っていました。それを話して、グリップ交換について聞きました。

「ツアープロはどの位の頻度でグリップ交換しますか?」

「練習期間とかは別にして、シーズン中であれば、最も頻繁に変えるプロゴルファーで、3試合で1回ですね」

少しでも磨り減ったと感じたら変えるプロゴルファーもいれば、あまりに気にしないプロゴルファーもいるそうです。ゴルファーとクラブが唯一触れ合うグリップは、感性でクラフトマンとしては腕の見せ所です。

下巻きをと呼ばれる両面テープをどのようにするとかいう数値ではなく、グリップそのものの個体差や季節ごとの環境などでも変化をして、プロが『ほんの少しだけ……』と要望する細かい部分的な変更を形にできたときは快感なのだとのことでした。

クラフトマンは、職人です。最後の最後は感性だという話にはグッと来ました。

ワークショップカーの快感

mzwc003

数値にも表れない見えない部分で、ワークショップカーの職人は戦っています。ツアーで戦うプロゴルファーに話を聞くと、多くの場合で、ビックリすることを聞かされることがあります。スピン量や打ち出し角度などの計測数値がどんなに良くとも、自分が打った弾道が気に入らなければ試合では戦えない、というのです。

21世紀になって、計測する機器の性能は向上し、価格も下がったので、一般的なゴルファーでも自分が打ったボールがどのようなスペックで飛んでいるかをあちらこちらで知ることができるようになりました。それは科学で証明された絶対的なものだと考えるのが普通ゴルファーですが、トッププロゴルファーの戦いの最前線では、数字より大切なものが存在しているのです。

「最も充実していると実感する瞬間はどんなときですか?」

この質問をしたときに、プロの要望通りにクラブを調整して結果が出たときです、と回答した後に、追加して話は続きました。

「それで優勝なら本当に最高なのですけど……。プロゴルファーが最高のボールを打ち続けても、優勝に結びつくとは限らないというところが、勝負の世界の厳しさなんですよね」

もちろん、調整が上手くいって契約プロゴルファーが優勝するということもあったと思いますが、勝負の世界は甘くないのです。無情なのだとしみじみとしました。

最後に面白い話を聞きました。

「プロゴルファーは、優勝した直後でも、普通にクラブを変えたり、調整したりします」

一般的な考えだと、優勝できたら、その状態が変わらないように必死でキープしようとすると思います。でも、トッププロゴルファーは違うというのです。最先端で戦っているトッププロゴルファーだからこそ、常に上を目指して変化することを恐れない、ということのようです。

ワークショップカーの仕事にゴールはないのです。話を聞かせてもらった女部田さんが話しながら少し複雑な表情をしていたように見えたのが印象的でした。

僕がトーナメント会場で見たことがあるツアーバンよりも、今回、見せてもらったワークショップカーは片付いていてきれいな状態でした。トーナメント会場では、予備のヘッドやシャフト、その他にも色々なパーツが積み込まれていて、現場ならではの臨場感がもっとあります。

戦いの最前線に行く直前の車内の様子を見られることは珍しいので面白かったです。そこで色々な話を聞けたのも良い経験になりました。

テレビ中継でも、トーナメント会場でも、ミズノのワークショップカーを見かけたら思いだしてください。ゴルフコースだけではなく、あの青い車の中でも、トーナメントを戦っているクラフトマンたちがいるのです。

 

この記事を書いたライター

1965年生まれ。東京都文京区出身。板橋区在住。中1でコースデビュー。
競技ゴルフと恋愛に命をかけた青春を経て、ゴルフショップ、ゴルフ部コーチ、ジュニアゴルファー育成団体などで勤務しながらゴルフエッセイストになる。
ゴルフ小説、恋愛小説なども執筆している。日本ゴルフジャーナリスト協会会員。
ブログ更新中!:ゴルフ惑星

> このライターが書いた記事をもっと読む