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ホールカップはどうして108ミリなの?/誰かに話したくなるおもしろゴルフ話

4.25インチという長さをミリにしたら、108ミリ。単純にそれだけのことなのですけど……。

108という数字で、日本人ゴルファーは除夜の鐘を連想します。人には色々な苦悩や迷いがありますが、仏教ではそれを煩悩といって、108個あるとしているわけです。大晦日の午前0時を跨ぐ時間に、煩悩の数だけ鐘を鳴らしてお祓いをする儀式は信じる信じないは別として、多くの人々を清々しい気持ちにさせる風習となっています。

108という数字と、煩悩がリンクする日本人ゴルファーで良かったと思ってしまうのです。ホールカップに近くなるほど、ゴルファーは煩悩に苦しめられていることは間違いないですからです。この嘘のような偶然の一致に運命を感じます。

そして、ほんの少し得をした気分になるのです。煩悩からは逃れられないと達観すれば、ゴルフを楽にできるようになるかもしれません。

4.25インチの伝説

ゴルフの黎明期には、ホールはただの掘った穴でした。最古のゴルフ規則でも、その穴についての規制は特にありません。

イギリスで始まった産業革命で作業が機械化され、人々に余暇という概念が広まりました。成金も出現しましたし、庶民の中にもゴルフをしてみようと考える人が増えていったのです。

たくさんの人がゴルフコースに来場することになって、いくつも困った問題が起きました。その一つが、穴がどんどん大きくなってしまうことでした。

当時はボールを乗せる現在のようなティーは発明されていなかったので、ホールの底から砂をつまんでティーとして盛り上げ、ボールを置くのが当たり前だったそうです。砂を取り出すほどに、縁が崩れて穴が大きくなってしまったわけです。

ここからが面白いところです。

全英オープンが始まった頃、ホールについての大流行がスコットランド中で起きました。ホールの縁を守るのと同じ条件でプレーができるように、ホールに土管を入れるようになったのです。

その土管の内径が4.25インチ。下水道に使用するための土管だったそうです。多くの文献には、トム・モリスが土管を埋めるアイディアを思いついたとしています。

トム・モリスは初期の全英オープンで優勝常連者の一人で、当時の世界一のプロゴルファーでした。元々はボールやクラブを作るショップにいた職人でしたが、のちに世界最初のグリーンキーパーにもなります。ゴルフ界の最初のスーパーヒーローだったので、たくさんの伝説があるのです。

ゴルフ史研究家たちの調べによると、正確には土管を埋めるアイディアはトム・モリスが発案したわけではなく、流行をいち早く取り入れて、お墨付きを出したのが彼だったというのが真相のようです。

とはいえ、この土管を埋めるというアイディアとそれに合わせて円形に芝生をカットするホールカッターが開発されたことにより、ゴルフは一気に現在の形になってきます。同時に、土管の内径に過ぎなかった4.25インチは、スタンダードとして認められていったのです。

ホールカップの実力

現在のゴルフ規則では、108ミリの直径のホールカップは深さ101.6ミリ以上、円筒を埋め込む場合は25.4ミリ以上深く沈めなければならないとされています。正式には“ホール(Hole)”と呼び、ホールカップは俗称です。

偶然生まれた108ミリですが、どうして100年以上も変更されていないのでしょうか?理由はたくさんありますけど、一番の理由は、この大きさが易しすぎず難しすぎず、最も面白くゴルフができると誰もが感じたからです。

1980年代初頭までは、ゴルフボールは現在より約1ミリほど小さかったのですけど、現在のボールの大きさでも3つ並べて真ん中のボールが円の中心を通るように転がすと、3つともホールの中に落ちるのです。

ジャストタッチならボール3つ分の許容範囲。真ん中であればかなり強目に転がってきたボールでも入るという前後に対する許容範囲。偶然とはいえ、これより大きくとも小さくともゴルフがつまらなくなるぴったりの大きさなのです。

約20年前から、米国を中心にしてバケツ大のホールカップでゴルフをしようという動きがあります。ジャック・ニクラウスなどの著名なプロも賛同しています。日本でも、16インチ前後のホールカップでゴルフをする体験イベントが行われています。

初心者がより楽しめるようにしないと、難しすぎてゴルフをやめてしまう人がどんどん増えてしまうという危機感と、近年のグリーンの整備技術の向上が裏目になって、ゴルフの試合でショットよりパットが重視されすぎて面白みに欠けるという意見が、ホールの直径を3~4倍にするという動きを推進しています。

実際にやってみると、短いパットはかなり入るようになりますけど、初級者や中級者ではスコアはあまり変わらないという想定外の結果になってしまうのです。

ますます108ミリのカップが神秘的に見えてきます。

ホールカップの相対性理論

ティーインググランドからボールを打って、ホールカップに入れるのが、ゴルフというゲームの基本です。飛ばして、寄せて、入れるという三つの要素の内で、ホールカップが重要になるのは“入れる”という要素です。パッティングは、ゴルフにおいて特別なゲームでもあるのです。

プロゴルフトーナメントで、ある選手が競技委員を呼んでクレームをつけたことがあります。

「このホールのカップが規則より大きいように見える」

そんなはずはないと測ってみると……109ミリあったのです。使用していたホールカッターに不備があって、ほんの少し大きくなってしまったというのが後になってわかりました。たった1ミリの大きさの違いがわかるなんて、トッププロは凄いと話題になりました。

昔から小さなホールカップで練習すると、本番で108ミリのホールが大きく見えるので安心してパッティングができるといわれて来ました。練習法として取り入れているトップ選手は、現在でもいます。

ゴルフはメンタルが強く影響するゲームです。同じ108ミリのカップなのに、状況や心理状態で大きくも小さくも見えるものなのです。不思議なのですが、これこそがゴルフの醍醐味で、カップの大きさの絶妙さなのでしょう。

ボールを3つ並べて転がしていくと、全てのボールが入ると説明しても信じないベテランゴルファーもいます。実際にやってみても、不思議そうにしています。長年の練習や経験で、ボール2つ分の幅で考えるようになっているからです。

現実の理解よりも、ゴルファーにとって大事なのは、結果がちゃんと出るかということです。自分なりのカップへと続くラインの幅を見つけることが、パットを決めるコツなのかもしれません。108ミリと知っていても、ホールカップの大きさを完全に把握できるゴルファーはほとんどいません。

ちなみに、トイレットペーパーの幅はJIS規格で114ミリとなっています。直径に決まりはないので、110ミリ前後になっているといわれています。何度か実験してみましたが、ほとんどのトイレットペーパーはホールカップに入りました。

身近なものを見ても、ゴルフと結びつけて考えてしまうのはゴルファーの悪い癖です。でも、それもゴルフの内だと思うと楽しいのだから困ってしまいます。

これであなたも、“108ミリ”が気になってしかたがないはずです。

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