グリーンを知らずしてゴルフを語るのは恥ずかしい?/ワンランクアップするゴルフの裏技
300ヤードの豪快なドライバーショットも、1センチのパットも、同じ1ストローク……。ゴルフの面白さを表現するときに使われる常套句です。
繊細なストロークを楽しめるようにグリーンは日進月歩で進化しています。芝生の種類、速さのフィートという単位、硬さのコンパクション、知れば知るほどパットは易しくなります。
2つグリーンがあるコースっておかしいの?
グリーンに使用される芝生の種類は、有名なものだけでも10種類以上あります。より良い環境でグリーンを楽しんでもらうために、新しい品種も次々に出てきていますが、20世紀末までは、日本の場合はもっと単純でした。
夏は暑くて湿度が高く、冬は寒くて乾燥する四季がしっかりとしている日本は、他のゴルフ先進国とは比較にならない苦労があったからです。芝生を敷き詰めるゴルフコースは、多くの場合で1年を通して気候の変化があまりないエリアで数を増やしてきたのですが、日本ではそういうエリアはほんの少ししかありません。
ゴルフ先進国と同じような芝生でゴルフコースを作っても、夏や冬を越せないという事情がありました。日本のゴルフの先人たちは、フェアウェイとかラフは夏用の芝にして、冬場は休眠して茶色になっても仕方がないと諦め、グリーンは夏用と冬用の2つを作って1年中良いコンディションでプレーできるように工夫したのです。
夏用のグリーンの芝生は、高麗芝(フェアウェイに多く使われているものと同じ種類。しかし、グリーンに使われているものはより細かい葉が発芽する別のもの)、冬用の芝生はベント芝という洋芝を採用し、日本中にコースは増えていったのです。「2グリーン」と呼ばれるコースは、こういう事情で生まれました。
1980年頃から状況が一変します。ベント芝と呼ばれる海外産の洋芝の品種改良が飛躍的に進み、管理する技術も向上して、洋芝のほうがスムーズにボールが転がり、かつ、夏を乗り越えられるケースも出てきたのです。
「2グリーンは日本独自のもので邪道、1ホールに1グリーンが正しい」という運動が広まりました。バブル経済で好景気になったことも重なって日本中に1グリーンの新設コースが増え、2グリーンを1グリーンに改造するコースも多くなりました。
しかし、海外ではむしろ2グリーンを日本の知恵と工夫の産物だと評価する見識者も多くいます。一概に2グリーンは悪者だという考え方は、逆に日本流なのかもしれません。
洋芝の種類は、どんどん増えています。日本ではペンクロスという系列のベント芝が広まりましたが、現在の新しいグリーンでは採用されません。芝生の種類によって色々な特徴がありますが、すべてはゴルファーが気持ち良くパッティングを楽しめるように開発されたものです。
名称を詳細に覚える必要はありませんけど、ちょっとだけ興味を持っておくと「新しい芝種だと転がりが良いな」なんてわかってしまうかもしれません。ゴルフの密かな楽しみとしては、かなり上級です。
グリーンで使われる数字の意味を知ろう
ゴルフトーナメントの中継を見ていて、あれ?と不思議に感じる人は少なくありません。ホールの長さや残りの距離などはすべてヤードなのに、グリーンに乗ったら、急にメートルになるからです。
多くの日本のゴルファーは特に疑問もなく、実際のプレーでもヤードが基本なのに、グリーン上はメートルを使います。これは、ゴルフ中継が始まった頃になされた取り決めが、そのまま広まったものだそうです。
「グリーン上のように長さが明確にわかったほうが視聴者に伝わるシーンでは、慣れ親しんだメートルやセンチを使う」という取り決めは、何度かすべてヤード法にしようという議論はあったようですけれど、現在でも変わりません。
ちなみに、欧米でもグリーン上ではヤードをあまり使わず、フィートを使用します。1フィートは約30センチなので、より詳細に距離を伝えることができるからです。
パット専門のコーチの中には、フィートで考えるほうがパットが上手くなると指導する人もいます。確かに1メートル刻みと30センチ刻みで考えるのでは、後者のほうが繊細なパッティングができるような気もしますね。
20世紀末まで、グリーンの速度の基準はミリを使っていました。「3ミリのダブルカットだから、今日は速いよ~」というような使い方をしました。
これは、グリーンの芝生を刈るときの“刈高”のことです。地上から3ミリの高さに芝刈り機のカッターを設定して刈ることを「3ミリカット」と呼んだのです。ダブルカットは「往復して刈り残しがないようにした」という意味です。短くなればなるほど速いグリーンになるという意味で、数字は使われていました。
現在では、刈高で速さを語ることはほとんどありません。例えば、先程の3ミリのダブルカットより、4.5ミリのシングルカットなのに遙かに速いグリーンが管理できるようになったからです。未だに刈高のことを気にするオールドゴルファーがいますが、あまり意味がないのです。
一昔前までは刈高が表示されているのが普通でしたが、現在では代わりに別の数字が表示されいることが増えました。使われているのは、フィートです。
これは、“同じ速度で転がしたボールがどのくらい転がったか”という長さです。8~9フィートが一般的で、11フィートを超えるとかなり速いグリーン。プロのトーナメントでは、14フィートを超えるような超高速グリーンもあります。
速さを測るときに使う、溝が付いた用具がスティンプメーターです。これは溝が付いた棒のようなもので、同じ位置から同じ角度でボールが転がるようになっています。
できるだけ平らな場所で、4方向から複数回計測した平均値をとるのが正確な計測法なのですけど、いい加減な計測をしているコースが少なくないのも残念ながら事実です。本来なら同じはずの8フィートで転がりが違うということもあるので、一つの目安と考えると良いでしょう。
どうやってグリーンを速く仕上げているのか、という話の前に、もう1つだけ数字の話をしましょう。これはあまり耳にしないですけれど、トーナメントなどでは「コンパクションは15。グリーンは締まっています」なんていう感じで説明されたりします。
コンパクションは、“グリーンの地面の硬さ”です。釘のようなものが付いたコンパクションメーターという計測器をグリーンに刺して、その抵抗で数字が出るようになっています。コンパクションは14を超えるとかなり硬く、グリーンにボールマークが付かなくなります。逆に10未満だと、ボールが半分入るような大きなグリーンマークが付くようになります。
コンパクションは日本の発明なのですけど、計測方法が複数あって数値もかなり違うことと、ホールによって環境が変わるケースもあることから、一般のゴルファー向けの数値としては普及していません。
色々な数値が出てきましたが、すべては快適なパッティングを支えるグリーンコンディションを維持する為のものです。まずは数字の意味を理解して、自分のパッティングを向上させる情報にしましょう。
速ければ速いほど良いグリーンというのは残念
「グリーンは速ければ速いほど良い」という神話があり、徐々に速くなっていく傾向が世界中であります。しかし、季節やコースがあるエリアの気候条件、その他の様々な要素で、同じ努力をしても必ず速いグリーンに仕上がるわけではないのです。
ゴルフは自然との戦いだといわれますが、ゴルフコースの管理は、まさに自然との戦いなのです。この20年で、日本のゴルフコースのグリーンはスティンプメーターで平均して2フィートぐらいは速くなりました。現代のゴルファーは幸せです。
グリーンを速くするために、芝生をただ短く刈れば済むのではない、と説明しました。もう一歩話を進めましょう。
球体が転がるとき、できるだけ長く転がるために必要なのは、無駄な抵抗をなくすことです。想像してみてください。絨毯よりフローリングの床のほうがボールは転がるはずです。凸凹は抵抗になるのです。現在のグリーンの管理法で最も重視されているのは、表面をできる限り平らにすることなのです。
芝生は生き物なので、葉を短く刈りすぎれば必要な光合成ができなくなって死んでしまいます。適度に葉を茂らせて、密度をあげることで凸凹を少なくすること。目砂をして凹みを埋めること。そして、硬くすることなのです。柔らかいものはどうしても凸凹がつきやすくなり、転がりが悪くなってしまいます。
数百キロという重量をかけてきれいにグリーンを均す、転圧ローラーという重機を使う方法もあります。これは、ゴルフトーナメントを開催するコースでは多くで採用されています。しかし、転圧ローラーを所有しているコースは多くはないので、一般的ではありません。表面の凸凹をなくせばなくすほど、ボールは転がるのです。
速いグリーンは、硬いグリーンでもあります。しかし、硬いグリーンはショットがグリーンに止まりにくいので面白くないというゴルファーも大勢います。速いグリーンを求められているのに、あまり硬くは出来ない……という矛盾の中で、コースを管理している人たちは日々頑張ってくれています。
グリーンというゴルファーの檜舞台は、陰で支えているたくさんの人たちがいてこそ成り立っています。速さだけでしか評価できないなんて、ちょっと寂しいじゃないですか。
真冬のフェアウェイやラフは、休眠して枯れたようになっています。そういう中でも、緑に輝いてゴルファーを待っているのがグリーンです。重要なことは速いことではなく、TPOに合わせてそのグリーンを攻略できるかどうかです。グリーンの速さを言い訳にするゴルファーは、決して尊敬はされません。
極端なことを書けば、グリーンは速くとも遅くとも、ゴルフは同じように面白いのです。
20世紀初頭まで、グリーンは刈り込まれた現在のグリーンだけの意味ではなく、コース全体の意味でした。“ラブオブザグリーン(Rub of the Green)”というゴルフ用語に、そういう意味があったのだと証拠として残っています。
ゴルフに行きたくなったら、通じないのを覚悟して「グリーンに出ようよ」と仲間を誘いましょう。グリーンを制する者は、ゴルフを制するのです。グリーンの情報を読み取れるようになれば、ゴルフがますます楽しくなるはずです。