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ちょっと変わった名勝負~2000年全米オープン~タイガー・ウッズとUSGAの一騎討ち!?~

タイガー・ウッズ選手の強さが最も際立っていた時期といえば、2000年から2001年にかけてではないでしょうか。

“タイガー・スラム”

2000年の「全米オープン」「全英オープン」「全米プロゴルフ選手権」と次々にメジャータイトルを制覇し、さらに翌年の春「マスターズ・トーナメント」でも見事優勝。なんと、ウッズ選手は2年にまたがりメジャータイトルを4連覇してしまいました。この年またぎでのグランドスラムは“タイガー・スラム”とも呼ばれ、ゴルフ界のみならずスポーツ界全体の大きな話題となりました。

この頃のタイガー・ウッズ選手は文字通り“手がつけられない”状態で、ショット、パットの精度はずば抜けていましたが、特筆すべきはリカバリー・ショットで、厳しい情況からでもピンをデッドに狙いバーディーを連発しました。

本コラムでは、そんなウッズ選手の全盛期 “タイガー・スラム”のプロローグともいえるトーナメント、2000年に開催された「全米オープン」にスポットをあててみました。
2000年の男子全米オープンはカリフォルニア州、ペブルビーチ・ゴルフ・リンクスで開催されました。

記念すべき第100回大会、また、前年(1999年)の同大会を制したペイン・スチュアート選手が飛行機事故で亡くなり、ディフェンディング・チャンピオン不在という異例の事態ということもあり、さまざまな意味で注目を集める大会となりました。

結果は皆様もご存知の通り、12アンダーで2位に15打差というメジャー大会記録のおまけ付きでウッズ選手の圧勝となりました。しかも2位タイの選手のスコアは3オーバー。つまり、アンダーパーはウッズ選手ただ一人でした。

日本でもテレビ中継されましたが、実況をされていたテレビ朝日の森下アナウンサーはこの試合の模様を“タイガーの一人旅”という言葉で表現されていました。

“タイガーの圧勝”という、見方によっては退屈とも取られかねない試合の裏側には、実は別のドラマがあったことを皆様はご存知でしたでしょうか?

USGA(全米ゴルフ協会)が威信をかけたタイガー・ウッズ選手との一騎討ち!

最後に泣いたのは一体だれだったのでしょうか?!

USGA(全米ゴルフ協会)とは?

全米オープンを語る上で避けて通れないのが、このトーナメントを主催している「USGA」です。

USGA(全米ゴルフ協会、United States Golf Association)。創立は1894年12月。

ニュージャージー州ファーヒルズ・ゴルフ・ハウスに本部を構える、アメリカ国内のゴルフを統括する団代。英国はスコットランドにあるゴルフ競技の世界的な総本山、R&A(Royal and Ancient Golf Club of St Andrews)と同様に、独自のハンディキャップシステムを持っており、2016年現在、年間13の選手権競技を主催しています。

USGAの主催する競技会は主にアマチュアを対象としており、アマチュアも参加できるプロのオープントーナメントとは違い、出場権がアマチュアにしか与えられていない競技会もあります。
そんなUSGAが主催する協議会でもっとも有名なものが、全米オープン選手権(男子、女子、男子シニア)です。また、2018年からは全米女子シニアオープン選手権も開始予定となっています。

これらは、数あるプロの競技会(男子、女子、シニア共)においてそれぞれメジャー大会の一つとされており、伝統のある競技会となっています。また、メジャー大会とはいえオープン競技なので、条件を満たせばアマチュアも参加することができます。

PGAツアーと混同してしまいがちですが、PGAツアーはツアープロが所属するツアー運営団体で、PGAツアーの活動内容はUSGAのそれとは異なります。

全米オープン選手権(全米オープン)とは?

次に全米オープンについて少しお勉強をしてゆきます。

全米オープン選手権(通称:全米オープン)は前出のUSGA主催のオープントーナメントで、四大メジャー大会の一つとして、100年以上もの歴史がある由緒ある大会です。アメリカ国内外(日本、イギリスなど)で予選会があり、最終予選を通過すればアマチュアでも出場資格を得られることから「オープントーナメント」と呼ばれています。

地区予選に参加できるアマチュアのハンデキャップは「1.4以下」という規則となっています。四大メジャー競技会でありながら有名なスター選手達に混ざって、アマチュアゴルファーの活躍が観戦できるのも全米オープンの大きな魅力の一つでもあります。

全米オープンの開催コースはUSGAが5年以上も前に決定し、開催年に合わせてUSGAが独自の基準で入念にコースセッティングを行います。選ばれるコースは名門と呼ばれるコースもあれば、地域の人が気軽に楽しめるパブリックコースが選ばれることもあります。

例えば、2002年と2009年の男子全米オープンの開催地となったニューヨーク州のべスページ・ステートパーク・ブラック・コースは、地元の人も気軽に楽しめる人気のパブリック・コースです。このコースが開催地に決まるときに、USGAがコース運営会社に出した条件の中に次のような項目がありました。

「コースのセッティングに掛かる費用は全てUSGAが負担する。それによって、ブラック・コースはチャンピオンシップ・コースに生まれ変わるだろう。しかし、それを理由にプレー料金を値上げしてはならない」

あくまで「アマチュアの立場を優先する」というUSGAの心意気を感じるエピソードですね。

次に、全米オープンのコースセッティングに関する話です。

PGAツアーも競技会によっては派手なバーディー合戦で盛り上がるものもありますが、全米オープンはそういった大会とは対極にあると言えます。

USGAが5年以上の歳月を掛けて仕上げるコースは、「ラフは長く、フェアウェイは狭く、そしてグリーンは速い」が基本となります。場合によっては、バンカーやその他のハザードの数が増えたりするということもあります。
例えば、ラフに入れてしまうと次のショットをコントロールすることは難しく“1打罰”と等しい状態になるため、必然的に選手達は我慢に我慢を重ねてパーを地道に積み上げてゆくという苦しい試合展開になってゆきます。つまり、スコアを落とすのは簡単ですが、落としたスコアを取り返す事が極めて難しいコースに仕上げられるのです。

特に選手達の前に大きく立ちはだかるのが、“超高速グリーン”です。まずは、その前にグリーンの速さの計測についてご説明いたします。

グリーンの速さの計測は、スティンプ・メーターという計測器を使います。
計測器といっても真ん中に溝のある長い板のようなもので、ボールを計測器のへこんだ箇所にセットしてゆっくり傾けていくと約20度の傾斜がついたところで転がり始めます。そして、ボールが転がった距離を測ってその速さを測定します。実際にUSGAが計測の仕方を説明しているビデオがありますのでご覧下さい。

大会中を含めて、入念な計測が入ります。ちなみに、グリーンの速さの目安は次のようになります。

7.5以下なら“遅い”
7.5~9.5なら“普通”
9.5以上なら“早い”
※数字の単位はフィート(1フィート=約30cm)

プロのトーナメントでは「11~12」でセッティングされますが、グリーンを短く刈ることによって手入れが難しくグリーンへのダメージも大きくなる為、アマチュアがプレーするコースでこのような早いセッティングに出会うことはほとんどありません。

さて、話を全米オープンに戻します。

このグリーンの速さですが、全米オープンの場合「14~15」でセッティングされます。動画をご覧になった方はお分かりいただけるかと思いますが、数値は双方向での計測の平均となりますので、仮に「15」という速さのグリーンがあった場合、下りのラインの速さは15以上ということになります。また、天候やスタート時間によってはグリーンが更に乾燥し硬くなり、更に早くなって選手達を苦しめることになります。

全米オープンのグリーンのセッティングに関する有名なエピソードに、ジョン・デーリー選手の話があります。
1999年全米オープン。パインハースト・リゾート・コースNo2の8番ホール。グリーン手前のいわゆる“花道”からのアプローチ・ショット。ボールはホールの少し手前で止まりました。

デーリー選手がボールに向かって歩いていこうとすると、止まったと思っていたボールがコロコロ転がり始め、もともとボールを打った位置まで戻ってきてしまいました。そして、次のアプローチも同じ結果に。そして、3回目のアプローチでも同じ事が起きてしまいました。

どのように打っても、カップ周りで止まらないグリーンに我慢の限界を超えてしまったデーリー選手は、転がって戻ってきている途中のボールをパターで打ち抜いてしまったのです。この時のグリーンの速さは、一体どれくらいだったのでしょうか?

ゲームの後のインタビューで、デーリー選手は次のように語っています。

「USGAは選手をコケにすることが好きな団体だ。もう俺は、USGAの主催するトーナメントには二度と出ない!」

その後、デーリー選手とUSGAは和解しています。

USGAが施す全米オープンのセッティングは、優勝スコアがイーブン・パー(±0)になるように調整しているとのこと。ちなみに、この厳しいコース・セッティングについてUSGAは次のように説明しています。

“偶然や幸運ではなく、公平に実力を競えるコース”

プロ・ゴルファーだから厳しいセッティングにするのではなく、あくまで“公平”にこだわり追求した結果、厳しいセッティングになっているのですね。USGAの究極のアマチュア精神には、脱帽するしかありません。

タイガー・ウッズ対USGAの一騎討ち!?

前出でもご説明しましたが、2000年の男子全米オープンはウッズ選手の圧勝という形で幕を閉じました。

では、なぜこのような結果となってしまったのか?これはこの年の男子全米オープンについて都市伝説のように語り継がれているお話です。

2000年男子全米オープンの3日目以降は、USGAが意地になってウッズ選手のスコアを崩そうとコース・セッティングをどんどん厳しくしていったそうです。しかしどんなに厳しいセッティングで挑んでも、全盛期のウッズ選手にはまったく通用することはありませんでした。

結果、他の選手が総崩れとなりウッズ選手の実力を更に際立たせる結果となってしまったとのこと…。信じるか、信じないかはあなた次第…。

「偶然や幸運ではなく、公平に実力を競えるコース」

USGAが求めた“公平”の犠牲になって泣いた人、それはウッズ選手以外の競技者全員ではないでしょうか?

毎年、その厳しいコース・セッティングに関しては、色々と物議をかもす男子全米オープン。これからはUSGAのコース・セッティングに注目して、優勝スコアを予測しながら観戦してみてはいかがでしょう。いつもと違ったUSオープンが見えてくるかもしれませんよ。

それでは、最後に2000年男子全米オープン、タイガー・ウッズ選手の最終日、全67打のダイジェストの動画をご覧下さい。

コース・セッティングが最も厳しくなっている最終日。15番、16番、17番ホールで迎えるウッズ選手のピンチ(?)に注目してご覧下さい。

2000年男子USオープン最終日。さて、USGAはこの日ウッズ選手からいったい何個のボギーを奪うことができたのでしょう?

(完)

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