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2016年特別日程の全米プロは、エピソードに溢れておもしろい?/誰かに話したくなるおもしろゴルフ話

お気付きの方も多いと思いますが、全米プロはあまり「第○○回」と頭につけません。第145回全英オープン、第116回全米オープンみたいに表記しないのはどうしてでしょうか?

諸説あります。伝統を重んじるのではないという主張があるというのはカッコイイ説です。確かに、他のメジャーに比べると新しいものを取り入れたりすることに積極的な傾向はあります。

今回は第98回目の全米プロです。二桁の開催数だからという説もあるので、再来年の100回大会で3桁になったらどうなるのかを注目したいと思います。

バルタスロールって3コースあるの?

1980年の全米オープンは、“バルタスロールの死闘”と命名されているぐらいですから、ちょっとゴルフに詳しい人なら誰でも知っています。

4日間同じ組で、優勝争いをしたジャック・ニクラウスと青木功プロ。2打差のまま最終ホールのグリーンでの両選手のバーディーパット。「U・S・A!」の大合唱。

個人的にも、30数年の時を経ても、テレビの前で興奮していたことをハッキリと覚えています。この話は、他でも書かれていますし、少し調べればたくさんの記事やコラムがありますので、このぐらいにしておきます。

全米プロは四大メジャーの中では、歴史が浅く、最終戦になるので、扱いが小さい傾向があります。ゴルフ通と呼ばれている人たちでもエピソードをあまり知らないことが多いのです。だからこそ、誰かに話したくなる話の価値は高くなります。

今回も全米プロのエピソードより、開催コースのバルタスロールGC絡みで1980年の話が出てくるでしょうから、バルタスロールGCのことで追加するのにちょうど良い話を紹介します。

バルタスロールGCは複数の18ホールのコースを持っています。これが最初のポイントです。意外に知らない人が多いのです。

アッパーコース(Upper Course)とローワーコース(Lower Course)です。どちらも素晴らしいコースとして有名で、全米オープンを7回開催していて、全米プロは今回が2回目です。ちなみに、1980年の全米オープンと今回の全米プロは同じローワーコースで行われます。

さて、中途半端に年表だけで勉強したマニアックな人の中には「バルタスロールには、アッパーと、ローワーと、オールドの3つのコースがあるんだよ」という勘違いをしている人がいます。

1903年と1915年の全米オープンが開催されたときに使用されたのが、オールドコースだったからです。現在、バルタスロールGCは、36ホールです。オールドコースは、現在では存在していません。

1895年に開場したバルタスロールGCは、1922年に大改造を経て現在の形で再オープンしたのです。この改造の設計をしたのが、米国が誇る天才コース設計家のA・W・ティリングハストです。改造ということになっていますが、実質は新しく36ホールを作り直したのです。

1954年の全米オープンの開催が決まったときに、第二次世界大戦後の新しい時代に相応しいコースにしようという気運が高まり、ロバート・トレンド・ジョーンズにローワーコースの一部の改造を依頼します。池越えの有名なパー3の4番ホールは、グリーンを改造しました。

出来上がったホールでプレーしたメンバーは大激怒して、グリーン傾斜が強すぎると抗議しました。実際に改造した本人にプレーをさせてみようということになり、メンバーが見守る中でプレーが行われました。

ジョーンズが打ったボールはグリーンをとらえて、そのままカップの中に消えたのです。ホールインワンを目の当たりにして、それ以降、文句をいうメンバーはいなくなったそうです。4番のパー3は、前半のキーホールです。現在でも難グリーンで有名です。注目しましょう。

他にも有名なホールがあります。最後の2ホールが連続してパー5なのですけれど、17番のパー5がサハラ砂漠と呼ばれ、フェアウェイを横切るバンカーがゴルファーに色々な選択をさせる戦略的なホールとしてお手本のように扱われています。

テレビ観戦しながらも楽しめるように、もう少しコースについて話をしましょう。

ゴルフの忘れられた天才

ゴルフコースをマニアックに調べている人の中には「バルタスロールGCといえば、A・W・ティリングハストの代表作だよ」という人がいます。間違いではないのですけど、ティリングハストという設計家をよく知ると、違和感がある発言なのです。

バルタスロールGCをテレビ観戦して楽しめるように、もう少し掘り下げましょう。ティリングハストがゴルフコース設計家として注目されたのは、なんと1974年なのです。

この年の全米ゴルフ協会主催の競技の内4つが同じ設計家のコースだったからです。全米オープンが“ウィングフットGCウェストC”、女子アマの英米対抗戦・カーティスカップの“サンフランシスコGC”、全米アマの“リッジウッドCC”、全米ジュニアの“ブルックローンCC”

偶然だったのですが、あまりのことに全米ゴルフ協会は調査を開始し、機関誌である『ザ・ゴルフ・ジャーナル』で《Golf’s Forgotten Genius (ゴルフの忘れられた天才)》という記事を発表したのです。この記事で、再注目されるようになって、その功績の研究が進み、現在では、お手本の設計家のように扱われるようになったのです。

A・W・ティリングハストは、フィラデルフィアの裕福な家に生まれて、若い頃から骨董品や美術品の蒐集家として貴族的な生活を送っていたようです。多趣味で、絵や写真、ピアノにダンス、クリケットやポロ、それぞれの世界で一流としても有名だったそうです。

セントアンドリュース旅行で、オールド・トム・モリスから直にレッスンを受けてゴルフを始め、その後、毎年のようにセントアンドリュースに行き、トム・モリスとも親交を深めたといいます。

1905年から全米アマに参加して、有名な選手と戦い、32歳(1907年)の時に親戚が作ったゴルフコースの設計を依頼されて、ゴルフ設計に目覚めました。すぐに、マンハッタンにゴルフコース設計事務所を開いたのです。

部屋の中で図面と向き合うより、現地に行ってその場で設計することを好んだそうです。当時でも、設計と建設の両方を請け負う事務所は珍しく、現場のスタッフからも色々なものを学んでいきます。

幅広い趣味で培われた直感的な発想と優雅な美意識が、独特の美しい曲線を持ったコースを産んだのです。ティリングハストは、同じようなコースを設計することを良しとせずに、その土地の地形と環境に合わせて、個性的な設計をすることを目指していました。

それでも、いくつかの特徴があります。ドライバーショットのランディングエリアは広くして、グリーンに近づいていくほど絞っていく形状。現地で学んだ排水の考慮で砲台型のグリーン。生涯で60を越えるコースを設計しましたが、後に、コース設計家には5つの御法度があると書き残しています。

水捌けの悪いグリーン。水捌けの良すぎるグリーン。短いホールに大きすぎるグリーン。長いホールに小さすぎるグリーン。急斜面の地形を正面に向かっていくホール。(急斜面は斜めに使うことで面白さが倍増する)

この御法度だけでも、現場で徹底的にゴルフコースを学んだことがわかります。21世紀になっても、評価され続けている理由はこういう部分なのです。

ティリングハストは、ゴルフコース設計以外でも初期のアメリカのゴルフの発展に寄与していました。それは、まさに天才的な活躍です。アマチュア、プロ、女子の3つのカテゴリーで、12人のベストゴルファーを選出して、毎年発表しましたし、パーより1打少ないスコアをバーディーと呼ぶようになったのも彼が始まりという説もあります。

アンティークのゴルフクラブやボールの蒐集にも熱心で、現在の鑑定の基礎を作ったのです。1916年には、全米プロを主催している全米プロゴルフ協会の発足にも協力していますし、その後も、長年にわたって指導的な立場で貢献します。

芝の育成、新種開発、コースの排水技術などの研究も積極的に取り込んで、それは、後に全米ゴルフ協会に引き継がれて、USGA方式と呼ばれる手法の基礎となりました。

ティリングハストの代表作といえば、やはり、バルタスロールGC、ウィングフットGC、サンフランシスコGCの3コースが挙げられますが、どれも個性的で美しいコースでありながら、無理や無駄はないのが特徴です。

そして、ニューヨーク州の全米オープンの舞台にもなったベスページステートパーク・ブラックコースも外せません。21世紀のゴルフを見越したようなレイアウトは1930年代の半ばに設計されたのです。(ベスページステートパークの5つコースの内、レッド、ブルー、ブラックの3つが彼の設計)

ティリングハストの設計コースをプレーするのは、一般的には難しいので、思いだしながら、今回の全米プロでじっくりと楽しみましょう。難しい理論など不要です。趣味人だった天才が残した美しさを見つけるだけでも十分に楽しめます。

今回の全米プロの基礎

ディープな楽しみ方を紹介しましたが、2016年の最後のメジャートーナメントの全米プロの基礎的なまとめをしましょう。

まず名称です。全米プロと書いてきましたが、正式な名称は“PGA Championship”です。PGA選手権と書くのが正確なのかもしれません。とはいえ、ほとんどのメディアで全米プロとしています。

次に日程です。なんといっても、今回が特別なのは日程なのです。通常は8月に行われている全米プロは、リオデジャネイロオリンピックがあり、ゴルフが競技として復帰する関係で7月末に開催されます。

実は、全米プロは過去にも柔軟に日程を変更したことがありました。1971年大会は、会場になったフロリダ州のPGAナショナルGCが暑い場所にあるために、2月に開催されたのです。優勝したのは、ジャック・ニクラウスでした。これは知らない人が多いので、うんちくとして最適です。

他のメジャーが難易度を高めて、トップ選手の技術を引き出そうという考え方を持っているのに対し、全米プロは会場であるコースに特別な細工をせずにプロゴルファーが最高のパフォーマンスを発揮することを良しとしている傾向があります。

昨年の全米プロは、ジェイソン・デイが優勝しましたが、優勝スコアの20アンダーは全米プロの記録となりました。詳細に書くと、最少打数では265ストロークが記録で、2001年の優勝者のデビッド・トムズなのですけど、コースのパーとの関係だと20アンダーになるというわけです。

テレビ観戦を促してきましたが、全米プロは最も中継が少ないメジャーでもあります。今回は、地上波はTBS系列で4日間中継されますし、たっぷりと見たい人にはゴルフ専門チャンネルのゴルフネットワークが長時間中継をすることが決まっています。

21世紀の現代ならではでネットでは、ダイジェストを見たりもできるはずですので、諦めないで自分なりの楽しみ方を知って欲しいと思います。

オリンピックにゴルフが競技復帰したことで、日程が特別な全米プロが日本人に馴染みがあるバルタスロールGCで行われることを不思議な縁だと感じるような出来事があることに期待したいと思います。

エピソードに溢れた全米プロは、見ても面白いですし、ゴルファー同士で語り合っても楽しいものです。オリンピック直前に感動を共有しましょう。

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