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だから面白い!歴史に残る個性派ゴルファー達③これぞプロの矜持、ウォルター・ヘーゲン編

ヘーゲンのライバルは、グランドスラマー「球聖」ボビー・ジョーンズでした。まだマスターズが開催される以前のメジャー4大会は、全米、全英オープンと全米、全英アマでした。当時はプロとアマの実力差がなかったからです。当時のプロとアマを象徴する存在が、ヘーゲンとジョーンズだったのです。

もちろん、ヘーゲンはアマの大会には出場できません。従って、当時グランドスラマーにはなりようがありません。2人が覇を競った全米、全英オープンの記録を見ると、ジョーンズ7勝に比べヘーゲン6勝。同時代にあった全米プロゴルフ選手権(ジョーンズは不出場)でヘーゲンは5勝しています。まさに互角のライバルでした。

当時のジーン・サラゼンなど多くのプロゴルファーは貧しい家庭で生まれ、幼いうちからキャディー業で小遣いを稼ぎ、ゴルフ場従業員となってツアーに出場していました。言わばゴルフ倶楽部がパトロンとなって、競技者を支える構図でした。プロゴルファーは他のゴルフ場で大会に出場しても、そこの会員ではないのでクラブハウスに出入りすることができなかったのです。

これはゴルフに限らず、多くのスポーツでこうしたパトロンー選手の関係がありました。ヨーロッパ・アルプスでは、各国の貴族が冬季休暇でアルプスの別荘に来て、番人の息子など地元の子供達のスキー競技のスポンサーとなりました。これが冬季競技の発祥でした。日本でも相撲部屋のパトロンは各地の大名でした。

ヘーゲンの時代、プロゴルファーは金持ちゴルファーと一緒にプレーする接待役か、キャディよりはましな存在程度だったのです。ヘーゲンの出自は定かではありませんが、彼はこれに真っ向から歯向かったのです。ゴルフ場に所属して給料を得ることなく、賞金だけを稼ぐ「プロ」として活躍しました。

ツアー会場に真っ白なロールスロイス、白いタキシード姿で現れ、車の中で着替えをしたこともあります。選手がクラブハウスに入れないことへのあてつけでした。

そして、賞金は派手に使いました。高級車、仕立てたスーツ、連日のパーティーで酒と女。1920年代は、第一次世界対戦で疲弊したヨーロッパを尻目にアメリカの黄金時代でした。スポーツ界では野球のベーブ・ルース、ボクシングのジャック・デンプシーと並んで、ヘーゲンは時代の寵児でした。
ある時、ボビー・ジョーンズに「なぜ、君はゴルフをするんだ。自分はゴルフを愛しているからだ」と問われたヘーゲンは「金のためだ。だから勝つ」と答えています。ある時は、「金持ちになりたいわけではない。金持ちのように振る舞いたいだけだ」というヘーゲン。あまりに金を使い過ぎるのでツアー会場に借金取りや国税局が待ち伏せし、どうしても勝たなければならない状況の時もありました。

ゴルフスイングは左右にスウェイし安定感にはかけましたが、アプローチとパターの巧さが光りました。さらに賞金を得るためには、策をこらしました。

ジーン・サラゼンが苦笑いしてエピソードを話しています。素敵なデザインのネクタイが女性の名前でサラゼンに送られ、サラゼンは喜んでそのネクタイを締めて出かけました。ところがそのネクタイはヘーゲンからでした。こんな話を、マッチプレー中の緊迫したホールで暴露されたことがあるそうです。
ヘーゲンは、既存の権威にも噛み付きます。ゴルフクラブ会員はエスタブリッシュメント(上流階級)で、プロゴルファーは従業員扱い。これに対し、ヘーゲンは「自分は上流階級の一員だ」と主張し、クラブハウスに乗り込み一番高い料理を頼み、高額チップを弾みました。もちろん周囲が反発することもありましたが、ヘーゲンは大衆にとってカリスマとなり、「プロゴルファー」という職業が認知されたことには間違いありません。

一見、わがままな振る舞いに見えるヘーゲンですが、ゴルフの伝統はリスペクトしていました。スコットランドに積極的に遠征し、1922年アメリカ人初の全英オープン優勝を飾るとともに、イギリス遠征をしぶるサラゼンなどのプロにも遠征を説得しています。ゴルフ普及のためにはいろんな国に出かけ、日本にも1930年に来日しています。小金井カントリー倶楽部はヘーゲンの設計です。

1940年以降、ヘーゲンはいきなりゴルフ界から姿を消します。まだ50歳代とプレーは十分可能な年齢でした。晩年はガンに悩まされたと言われていますが、友人、知人ともいっさい連絡を絶って、隠棲しました。

去り際は「キング」こと、ヘーゲンの美学なのでしょうか。ゴルフだけで金を稼ぐプロの矜持を確立させたヘーゲン、最後までクールな存在でした。

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