マスターズで復活を期したタイガー・ウッズ。彼の言葉を辿ります
- 2017.04.17
- トピック
「出場回数が何回であろうと関係ない。自分の最高のゲームを自ら醸し出せるかだ」
ちょうど20年前の1997年、タイガーがマスターズにプロとして初出場する前の言葉です。さらに続く言葉として、
「過去の知識や経験は手助けになるけど、自分のゲームまでは呼び起こしてはくれない」
他のメジャー大会は毎年開催コースが変わるのに対し、マスターズの舞台、オーガスタは変わりません。そのため、オーガスタでの経験がマスターズ出場で有利と言われてきたのに、タイガーはこう言い放ったのです。
言葉通りタイガー伝説の始まりがマスターズ
タイガーのマスターズへの登場は衝撃でした。初出場初優勝を21歳3カ月の史上最年少で飾ったスコアは、なんと2位に12打差と圧倒的な強さを披露したのです。20年たった今でもその鮮烈なデビューは人々の脳裏に刻まれています。
タイガーの言葉には、自分自身を燃え上がらせるような内容が多いのです。まさに、自分を鼓舞して、世界の頂点に駆け上がりました。
「夢を捨てるってことは希望を捨てるということ。希望を失えば、人には何も残らない」
「目標は他人から与えられてはいけない」
「目標は常に自分の中から生まれてくるべきなんだ」
タイガーの言葉には自分を高め、周囲も高める影響があります
大舞台でプレッシャーがかかればかかるほど燃えるタイガー。そうして奇跡的なショットを生み出し、雄叫びを上げるタイガーの姿は、タイガーを目標とするライバル達の心に火を付け、ファンの心を鷲掴みにしました。
「土壇場の重圧の中で最高のショットを成功させる。このスリルは何物にも変えがたい」
タイガーはゴルフを始めた小さい頃から、競うことが大好きでした。そして、こんなエピソードまで、残しています。
2005年の世界選手権最終日でタイガーはジョン・デイリーと優勝を争っていました。最終ホール、タイガーはロングパットを外し、ジョンが1mのパット決めれば優勝の場面で、タイガーはジョンのパットを「入れ!」と心の中で念じていたと言います。
「自分のライバルには強くあってほしいから、心から入ってほしいと願った」
結局、タイガーはプレーオフでジョンを下し、優勝します。タイガーがその場面で「入れ!」と願ったのは、ジョンが外したことによって優勝する事態を受け入れたくなかったのです。
さらに、ジョンが好プレーをすることで、自分自身のテンションも高めるパフォーマンスにつながると考えたからです。
スキャンダルと故障にまみれ
まさにスーパースターとして、一時代を築いたタイガーですが、その栄光と裏腹に精神的な問題を抱えていたようです。度重なる不倫によるセックス・スキャンダルと、膝、背中の相次ぐ故障です。
もちろんスター街道を駆け上がるタイガーを傷つけようと差別発言を浴びせられた時代もありました。そんな時は目覚ましいい成績を上げ、すべてはねつけていたタイガーも、スキャンダルからの名誉回復は難しいものでした。
かつて、こんな弱気な言葉を漏らしたこともあります。
「いいかい、ゴルフにも人生にも近道なんてないんだ。一生懸命努力するしかないんだよ」
「私はできる限りのことをしている。しかし、時には自分の思うようにはならない。ものごとはそういうものなんだ」
タイガーは、一時息子のサッカーボールを拾うこともできないほどの背中の痛みに襲われていました。努力するにも限界の状態なのです。
出場を期していたマスターズ
今年のマスターズはタイガー自身、20年目の節目としてPGAツアー復帰の大会として目指していました。
ここ数年は2014年に7試合、2015年に11試合に出場しましたが、背中の状態は悪化するばかり。2016年はまったく出場できず、2017年1月に1年半ぶりに出場を果たしましたが途中棄権。3月31日になって、腰の状態が良くならないため、マスターズの欠場を発表しました。
「たとえ劣勢にあっても、逃げないこと。例えどんなに負けていても、自分は勝てると、いつも信じなくてはならない」
「次のタイガー・ウッズになろうとか、ジャック・二クラウスになろうなんで考えない方がよいと思うよ。自分のベストになることを目指すべきだ」
これらの言葉はまだ、故障が明らかになる前の言葉ですが、まるで今のタイガーを予言していたかのようです。
昨年、タイガーはインタビューにこう答えています。
「ゴルフコースで20年間やってきたことは、みんなをやっつけたいっていう自分の身勝手で、負けず嫌いな思いからだった。それが(勝利への)原動力になったんだ。すべて自分の為だった」
新しいタイガーの可能性
タイガーがゴルフと一緒にこの20年で続けていたのが、タイガー・ウッズ・ファウンデーション(TW財団)でした。2006年には、カリフォルニア州にタイガー・ウッズ・ラーニングセンターを設立し、これまで13万人以上の卒業生を社会に送り出しています。
ここは、経済的に恵まれていない子供たちに大学進学を支援する教育施設で、中にはNASAのインターンシップを得て、火星での惑星探査機の仕事に携わった生徒もいました。
このタイガー・ウッズ・ラーニングセンターの生徒の中には、驚くことに、「タイガー・ウッズ」が誰かわからない生徒もいます。しかし、タイガーはそんな状況を喜んでいます。自分の名前ではなく、教育を得た事が子供たちにいい影響を与えていることに満足しています。
さらに、2016年にはアメリカ国内で初めてのタイガーの設計によるゴルフコース、ブルージャック・ナショナルがテキサス州ヒューストンにオープンしました。コース設計者としての可能性も新しい道の一つです。
もちろん、ジャック・二クラウスのメジャー18勝の記録を破ることをあきらめているわけではありません。41歳のタイガー、今の体調から考えるとあと4勝で並ぶメジャー優勝記録はまさに困難と言えます。それでも、タイガーは身体を治し、練習し、ツアーに戻る強い意志を持っています。
闘うタイガーの姿をもう一度見られるのか。ゴルフファンとして、その瞬間が訪れることを願います。