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タイガー・ウッズが3歳の男の子から受けた“心のゴルフレッスン”

1993年9月4日。

この日、ニューヨーク・ヤンキースの先発投手を言い渡されたのは、ジム・アボットという左投げの投手でした。対戦相手は強豪クリーブランド・インディアンス。

アボット選手は強打者揃いのインディアンスを圧倒し、味方の攻守にも助けられ見事ノーヒット・ノーランを達成しました。

この試合が観客の心に深く刻まれたのは、アボット選手がノーヒット・ノーランという素晴らしい記録を達成したことだけではなく、彼が先天性右手欠損という病気で、生まれつき右手の手首から先がほとんどない選手であったからでした。

アボット選手は右利き用のグラブを手首から先のない右腕にのせ、左手でボールを投げた後に素早くグラブを左手にはめボールを捕球、そしてグラブを外しながらボールを左手に持ち替えて送球をする“グラブ・スイッチ”という投法でメジャーリーグの4球団で活躍した名投手でした。

そんなアボット選手ですがインタビュー嫌いということでも有名でした。それは、彼のプレーに関する質問よりも“片手の野球選手”ということに対する質問が多いことに辟易していたからでした。

ノーヒット・ノーランを記録したニューヨーク・ヤンキースを離れる決意をする事になった理由として、アボット選手の“健常者と差別をしてほしくない”という強い気持ちが伝わってくるエピソードがあります。

アボット選手は、右腕に乗せたグラブを左手で握ったボールで押さえるように構えてから投球に移ります。当然、ボールを握った左手はグラブの“外”となりボールの握りが丸見えになってしまいます。

そこでニューヨーク・ヤンキースはボールの握りが見えないように改造したグラブをアボット選手の為に開発しました。しかし、アボット選手は「使いにくい」ことを理由にそのグラブを公式戦で使うことはありませんでした。

しかし「使いにくい」ということはあくまでいい訳に過ぎず「片手だからといって特別扱いはしてほしくない」というのがアボット選手の本当の気持ちだったのです。この時アボット選手は“チームも自分を身体障害者として見ていた”ことを悟り、他のチームへの移籍を決意したのです。

少し、ゴルフの話から逸れてしまいましたが、今回はアボット選手同様、右手欠損というハンデキャップを負いながらも自然体でゴルフに打ち込む当時3歳の男の子トミー君と、なかなか完全復活ができないタイガー・ウッズ選手の心のふれあいについて書きたいと思います。

トミー君が生まれたばかりの頃のこと

「私の人生で一番悲しかったことは、トミーが生まれてきたときに右手がないことに気づいた時でした」

お母さんに続き、お父さんもその時の事を語り始めます。

「その頃の私は、トミーがこれから“なにができないのか”を長い時間考えていました」

しかし、彼等はある日決意をします。

“トミーに普通の子供と同じように人生を歩ませよう”

お父さんは毎朝目覚めるたびに祈ります。

「彼が自分に限界を作りませんように。なぜなら私達がトミーの限界など感じていなかったからです!」

トミー君が1歳の誕生日に、両親はゴルフクラブをプレゼントしました。そして、トミー君はそのゴルフクラブを放そうとしませんでした。

初めてのタイガー・ウッズ!

トミー君が2歳になるかならないかという頃、お父さんがトミー君の部屋に入るとパットの練習をしていました。トミー君に「なにをしているの?」と聞くと、「ぼく、タイガー・ウッズにレッスンをしてもらいたい!」と言い出します。

それから2年後、その夢は突然トミー君の目の前に現れました!

なにも知らないトミー君は、お父さんとお母さんと一緒にパッティンググリーンへと歩いていきました。すると、そこには見覚えのある人物が立っていました。

「トミー!誰かいるよ!」
「タイガー・ウッズだ!」

ウッズ選手もトミー君に歩み寄り、丁寧にご挨拶。最初は少し緊張気味のトミー君ですが、ウッズ選手の笑顔にも助けられ徐々にリラックスしてゆきます。

そこからは、トミー君にとって夢のような時間が流れてゆきます。ウッズ選手がトミー君に優しく声をかけます。

「君はゴルフは上手なのかい?」
「上手だよ!」
「それじゃあ、一緒にパットの練習をしようか!」
「いいよ」

トミー君のパッティングを見て、タイガーも脱帽です。

「なんて素晴らしいコントロールなんだ!」

そして、ウッズ選手はトミー君にパット勝負を挑みます。

「よし、それじゃあここからパットを決めた方の勝ちだ」

最初にウッズ選手が打ったボールはカップの右側で“ピタッ”と止まりました。そして、トミー君の番です。

「次は君の番だ」

今度はトミー君の打ったボールがカップの左側で“ピタッ”と止まって、仲良く引き分けとなりパッティングの勝負はおおいに盛り上がりました。

これは、邪推かもしれませんがウッズ選手はわざとパットを外したのではないかと思っています。しかも、次に打つトミー君の邪魔にならないようにカップの右側に止めたのではないかと。このウッズ選手のパッティングにはトミー君に対する大きな愛情が感じられ、トップ・プロの技術はこういう使い方もあるのかと感動いたしました。

そして、ウッズ選手はトミー君のティー・ショットを見てさらにびっくりします。

トミー君は身体のバランスをとってクラブの特性を最大限に利用し、力強いボールを正確な方向性を保ちながら打ち続けました。

「トミーが左腕1本で、とても力強いボールを打つことができるのを見てとても驚きました」

トミー君は自慢げに、飛距離の話をします。

「僕、70ヤードも飛ばせるんだよ!」

心のゴルフレッスン

トミー君がウッズ選手に自慢話を始めました。

「僕は毎晩、ゴルフクラブと一緒に寝ているんだよ!」

すると、ウッズ選手も負けていません。

「なんだ君もか!僕も君くらいの時には、いつも7番アイアンと一緒に寝ていたんだよ!」

トミー君がゴルフと出会ってからお父さんとお母さんもトミー君が強くなったと語っています。

「私たちはトミーの心が傷ついてほしくはありません。ただ、ゴルフと出会ってから彼は本当に強くなりました」

そして、トミーと触れ合ううちにウッズ選手の中にも忘れていたなにかが蘇ってきました。

「父が生前よく言っていました『人生にはいくつものハードルが出てくるが、それは越えるためにある』と。トミーが他の人よりも高いハードルを越えようと努力する姿を見ていて、その言葉を思い出しました。」

まとめ

スポーツ選手の役割は、多岐に渡ります。もちろん主な仕事はそれぞれの分野で素晴らしいパフォーマンスを披露し、観客を喜ばせることでしょう。そして、子供たちにスポーツの楽しさを伝える伝道師のような活動もアスリートとして、大切な仕事の一つといえます。

しかし、今回の場合はどうでしょう。

トミー君にゴルフレッスンをするという役割のタイガー・ウッズ選手でしたが、実はゴルフの楽しさを教えてもらったのはトミー君ではなくウッズ選手だったのかもしれません。

どのような分野でも“初心に帰る”という言葉が使われる機会はあります。トミー君が楽しそうにゴルフに打ち込む姿を見て“初心”とは“無心でなにかに打ち込んでいた子供の頃の心”だと気づかされたのはウッズ選手だけではないはずです。

ニューヨーク・ヤンキースのジム・アボット投手のように、トミー君がPGAで活躍する日が来ることを願って。

(完)

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