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ウッドの愛称の謎を知っていますか?/誰かに話したくなるおもしろゴルフ話

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21世紀になって十数年。ゴルフバッグに本当にウッドが入っているゴルファーは皆無です。ウッドは木製ヘッドのクラブの総称でした。ドライバーやスプーンのことです。

言うまでもなく、現在ではウッドクラブのヘッドは金属製が当たり前で、コンポジットというカーボン繊維と複合したテーラーメイドのM1の大ヒットで更なる進化を予感させます。

言葉だけで残っているウッドについては、面白い話がたくさんあります。

ウッドクラブの近代史

木製のヘッドには、パーシモンという木が使われていました。柿の一種で、日本の実がなる柿とはだいぶ様子が違うものです。色々な木材を試しながら、パーシモンが最も加工しやすく、ボールも飛ぶということで主流になっていったのです。

アメリカのミシシッピ川の流域で育ったパーシモンが最も評価が高く、1980年代に入ると良い材料が不足するという問題が浮上していました。この問題だけでも1冊の本が書けるほど、色々なことがあったのですけど、問題を解決したのが、ステンレス製のウッド型クラブの出現でした。

プロゴルファーがトーナメントで使用して優勝したりして、瞬く間に市場にあるウッドクラブは金属製のヘッドになっていきました。1980年代の終わりには、完全にシェアを逆転し、木製のヘッドは消えていきます。

金属は重いので、中身を空洞にした中空ヘッドは芯を飛躍的に広げてミスヒットに強く、易しく打てるようになるという利点もありました。

当時、呼び方については若干の混乱がありました。アメリカの鉄鋼業の街をもじって「ピッツバーグ・パーシモン」と呼んだり、メーカーも「メタルヘッド」と言うようにして、ウッドと区別したりしました。

1990年代に入って、金属製ヘッドの素材はステンレスからチタン合金になっていきます。ステンレスより軽い素材を得て、金属ヘッドはどんどん巨大化していき、現在のようになりました。

現在では、トッププロでも20代だとパーシモンのウッドクラブを打ったことがないという人が当たり前になっています。

ゴルフクラブは、『遠く+正確に』というゴルファーの欲望を叶えるために進化を続けてきました。特にウッドクラブの歴史は『遠く』という部分を満たす目的で進化してきたのです。これからも、この歴史は続いていきます。

現代のゴルファーとして、その足跡をもう少し辿ってみましょう。

ブラッシーを知っていますか?

ゴルフをしない人でも、“ドライバー”という愛称を知っている人はたくさんいます。

最も飛ばすことができるドライバーが大好きだと公言するゴルファーはたくさんいます。野球のホームランの倍もボールを飛ばせるドライバーは、ゴルフクラブの代表選手です。

ドライバーは「drive=運ぶ」からつけられた愛称です。ウッドクラブの1番ですけど、番手で呼ぶ人はいません。

ウッドクラブの2番は、「ブラッシー(Brashie)」と呼びます。真鍮板という意味の「brass」が転じたものです。

木製のヘッドは、地面の上のボール打つたびに少しずつですけどソールが削れてしまうという弱点がありました。15世紀のゴルフクラブは、弓などを作る職人が副業で作っていました。最古のゴルフが出てくる公式文書である「ゴルフ禁止令」は、武器職人が儲かるからとゴルフクラブ作りに熱中して武器作りがおろそかになってしまうことを懸念したという背景もあったようです。

職人は当初、ソールが削れないように象牙などを貼って対応していたようです。ある日、ソールに真鍮製の板をネジで固定した職人がいたのです。

それを打ったゴルファーは驚きました。ボールは高く上がり、飛距離も増したのです。重い真鍮をソールにつけたことで、今でいう低重心ヘッドになったからです。もちろん、それまでのソールより長持ちもしました。良い用具は、一気に広まっていきます。これがブラッシーの始まりです。

ウッドクラブに1番とか2番というように、番手を入れるようになるのが一般的になるのは20世紀になってからです。

ブラッシーは2番ウッドとして20世紀中頃までは市場で取引されていましたが、コースに持ち込めるクラブが14本に制限されたことで、その姿を消すことになったのです。(1930年代以前は、米国のゴルファーを中心に20数本のクラブでプレーするトップ選手が多かったのです)

今でも時々ブラッシーは市場に登場して、ドライバーが苦手な人の助けになったり、スプーンより飛ばせるウッドクラブとして一部のゴルファーからは愛されています。

3番ウッドが「スプーン」です。スプーンは万能で、色々なシーンで使えるウッドクラブの総称だったようです。

当時はクラブについての規則がなかったので、フェースが凹面になっていても使用できました。凹んだフェースにはロフトもついていたので、見た目が食器のスプーンに似ていたことから飛ばしのブラッシーの下のウッドクラブを「スプーン」と呼ぶのが定着したのです。

4番ウッドは「バフィー」です。現在では、徐々に使われなくなってきています。奇数番手のウッドクラブが主流になっているのと、ユーティリティとかぶってしまうせいだと思われます。

実は、バフィーを4番ウッドの愛称で呼ぶのは日本だけで、本来は5番ウッドの愛称がバフィーなのです。1938年に、当時の3大ゴルフメーカーの1つだったウィルソン社が5番ウッドの商品名を「ファイブクリーク」にしたために、5番ウッドをクリークと呼ぶと勘違いしたまま広まったことが原因です。

バフィーの語源は、スコットランド語で地面を打つという意味の「baff」が転じたという説と、擦るという意味の英語の「buff」が転じたという2つの説があります。

5番ウッドは、日本では「クリーク」が愛称として広まりました。欧米では、ロングアイアンの愛称です。鉄製のクラブで打つときに出る音が、鍵をかけるときに出る音の「click」に似ていたことから転じたものです。語源を知っていれば、クリークは本来はウッドではない、とわかるわけです。

愛称を使いこなそう

明らかな間違いでも、定着してしまえば修正は難しいものです。ベテランのオールドゴルファーでも、バフィーとクリークの愛称の本来の使い方を知らない人のほうが圧倒的に多数です。

欧米では、4番と5番ウッドは愛称ではなく、そのまま番手で呼ぶことが一般的になりつつあります。6番以上のウッドも同様です。

そもそも愛称があるのは、どうしてなのでしょうか?

一番は、自分の持ち物への愛情表現かもしれませんが、冷静に考えると伝えやすさの工夫だったようです。最近ではアイアンは5番からとか6番からとかいうゴルファーが増えましたが、一昔前までは3番アイアンからのセットが主流でした。「3番!」と言っても、ウッドなのかアイアンなのかがわからなかったわけです。

オールドゴルファーの中には「木の5番」とか「鉄の4番」とか洒落る人もいますけど、なかなかそんな風には伝えられません。ウッドは愛称で呼んで、アイアンは番手で呼ぶことで混乱しないようにしたことが、ゴルファーの常識になったのだと思います。

現在ではセルフプレーが当たり前で、クラブを運ぶのも自分自身です。だから、そんな気遣いは不要だと考えるのは早計です。クラブを確認するとき。ゴルフショップで話をするとき。ゴルフ談義をするとき……。プレーをしていないときでも、ゴルファーは常に試されています。

ワンランク上のゴルファーを目指すのなら、ウッドクラブの愛称を知り、使いこなすのはゴルフのうちなのです。

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