ティーアップできることの幸せを知っていますか?/誰かに話したくなるおもしろゴルフ話
- 2016.03.08
- 知識向上
「Tee」は複数の意味で使われます。ホールのスタートエリアであり、そのエリアでボールを打つためにセットするという動詞としても使います。ボールを上に乗せるためのゴルフ用具の意味もあります。
初心者でも、ティーといえば少なくとも一つの意味は知っているのに、ベテランのゴルファーでも案外とティーについて知らないことがたくさんあるのは不思議なものです。
ティーアップできる幸せってどういうこと?
ゴルフは和製英語に溢れています。ムキになって修正する人もいますが、個人的にはそれも日本のゴルフの文化だと考えて、むやみに修正するのではなく、知っているけど趣があるから使っているというスタイルを貫いています。
例えばティーアップは、正式には「ティーオフ」といいます。でも、ティーアップのほうがわかりやすいですし、イメージも湧くので好きです。
次々に出てきますが、スタート時間も「ティーオフタイム」が正しい用語となりますが、これも普通のゴルフで使うと通じない可能性が高いので修正はしません。ティーの周辺だけでもこういうケースは色々とあるのが、ゴルフの面白さだと思うのです。
そもそも、「Tee」の語源は英語ではありません。諸説ありますが、オランダ語の「Tuit」という球状のものを置く土台という意味の言葉が語源だという説が有名です。
ゴルフの最初のルールが出来た18世紀までは、ホールアウトした穴の近くから次の穴に向かって打つという決まりになっていました。つまり「ティー」というエリアの概念は、ゴルフの黎明期にはなかったのです。
ティーインググランドという特別なエリアを定め、二つのティーマークの間で前方に出ない位置にティーアップするという現在の形が制度として生まれたのは、1875年です。このときに、スコットランド内で大論争が起きたそうです。
セットするボールを地面に置くだけで、盛り上がった場所に置くのは違反だという考え方と、砂などで盛ってボールを高い位置にセットしても良いという考え方があったからです。後者のほうが飛ぶので間違いなく楽しいわけですけど、やせ我慢の美学こそゴルフの精神であることも事実でした。
色々あったのですけど、なし崩し的にボールは高い位置に置いても良いよ、ということになって現在に至るのです。もし、このときに“地面に置くだけ派”が優勢になっていたら、ゴルフは現在とは違うものになっていたかもしれません。
コースデビューからしばらくは2打目以降もティーアップして打って良いことにして、まずはゴルフの楽しさを教えるという指導者もいますが、ティーアップすることで最初の1打が楽になった歴史に感謝です。
台場と呼んでいた時代もあったの?
日本にゴルフが輸入されて、百年ちょっと経ちました。日本でゴルフがプレーされ始めた頃、ゴルフ場の近所の子供たちが“チップ”というおこづかい目当てにキャディーの代わりをしていたそうです。
大の大人が耳かきを大きくしたような棒を振り回して何が楽しいのか?と不思議に思った彼らですが、クラブが入っているバッグを担いで一緒に歩くだけでビックリするような額のチップをもらえるので、奪い合うようにお手伝いを申し出たそうです。
クラブを運ぶだけでなく、必要に応じて素早くクラブを渡すことが求められ、彼らなりに気に入られようと勉強をしたようです。日本のゴルフの黎明期は、ほとんどが外国人ゴルファーだけで日本語は使えません。だから、面白いことが起きたのです。
ゴルフの魅力は昔から変わりませんから、日本人ゴルファーも徐々に増えていきました。海外で留学中にゴルフを覚えて帰国したエリートや、富裕層の子息も加わりました。
海外でゴルフを覚えて帰国した日本人ゴルファーが驚いたことの一つが、ティーエリアのことを日本でゴルフを覚えた人たちが「台場」と呼ぶことでした。「台場」というのは、大砲を撃つために作った砲台のことです。
日本は雨が多いので、水捌けを考えて一段高い位置にティーエリアを作っているのは今も昔もかわりません。確かに砲台のようには見えます。しかし日本でゴルフを覚えたゴルファーたちは、外国人ゴルファーがその場所を「台場」と呼んでいたのだから用語として間違いないと自信満々だったのです。
調べてみると、外国人ゴルファーがティーに向かうときに子供のキャディーにクラブを求めて言ったのが誤用されたのだと判明しました。ティーに向かうときに、ゴルファーは何も知らない子供に「ドライバー」と言ったのです。
ウッドの1番をドライバーと呼ぶことも、ドライバーという言葉も子供たちは知りませんでした。発音もネイティブですので、「ダイバ」と耳に入ったのです。クラブを握って登っていく場所は、盛り上がった砲台のような所です。何の疑問もなく「台場=1打目を打つところ」と認識して、それが広まっていったのでした。
21世紀の日本のゴルフシーンで、ティーエリアを台場と呼ぶことはもうありません。でも、大昔にそういうことがあったのだと思ってティーエリアの高台を見ると、愛着が湧いてくるというものです。
ちなみに「ティー」だけでも通じますが、正式には「ティーインググランド」が正しい用語です。ティーインググランドは2個のティーマーカーを結んで、奥行き2クラブレングス以内の長方形のエリアのことで、周囲の設置できる全体のことはティー、または、ティーエリアと呼びます。
ティーはゴルファーを語る!
ポケットにティーを入れるとパンツのシルエットが悪くなるので、という理由で、ベルトに小さな用具入れなどを付けてティーを持ち運んでいる若いゴルファーも最近は見かけるようになりました。いずれにしても、ティーは長短合わせて複数を持ち歩くようにするべきです。というような時のティーは、ボールをセットするときに使用する「ティーペッグ」のことです。
現在のような形のティーが生まれたのは、米国のニュージャージー州です。ゴルフ好きの歯医者が1920年に発明しました。それまでは、砂を盛ったりしてボールの位置を高くしてティーアップしていましたが、けっこう時間がかかったのです。砂遊びのように小さなコップ状の用具に砂を詰め、逆さにしてプリンのような形の砂山を作ってそこにボールを置くのが流行っていたからです。
木製のティーペッグは、ポケットに携帯していて素早くティーアップできるので「Ready Tee」として売り出したのですが、当時は全く売れなかったそうです。発売から約10年後に、プロゴルファーが使用しているのを見た人たちが購入するようになって、一気に世界中に広まっていきました。
片手でさり気なくティーとボールを持って、スッとティーアップする立ち振る舞いは、ゴルファーとしての熟練度を見定める一つの基準です。しゃがんで、ティーを刺して、ボールを後から乗せるという方法だと、私は初心者です、と宣言しているように思われてしまうのです。
また、段が付いているティーは高さを一定にしやすいので優れていますが、上級者はケースバイケースで、ティーアップする高さを変えたいから段がついているものは使わないという説もありました。過去形なのは、現在ではクラブとボールの進化に合わせるように、そういう微調整をしない上級者が増えているからです。
木製や特殊な樹脂のティーペッグはそのまま放置しても土に帰るし、芝刈り機の刃を傷めないのでゴルファーとして上級で、プラスチックなどの普通の樹脂製のティーは芝刈り機の刃を傷めるのでやめるべきだという説もあります。
これも今や都市伝説のようなものです。木製や特殊な樹脂のティーが土に帰るのは何年も掛かります。また、芝刈り機の刃は非常に繊細で、木製でも樹脂製でも噛み方によっては破損してしまうのです。(内刃と外刃で挟み込むようにして芝生を切るので、余計なものが挟まれば障害になるのです)
どんなティーでも、出来るだけ拾うことが正解です。壊れたティーもゴミ箱に捨てるか、せめて、ティーマークの横とかの目立つところに集めておきましょう。(芝刈り機で刈るときにティーマークは動かすので、そのときに拾ってもらえるから)
また、どのティーマークを使ってプレーするかというのも、本人たちが思っている以上にゴルファーとしての熟練度を露呈させます。
バックティー、またはフルバックティーとやたらと長い距離でゴルフをしたがる人が増えているのは、滑稽で恥ずかしいことです。本格的なゴルフを真剣にしているのだとアピールしたいのか、または自己満足なのか全くわかりませんが、こういうところで見栄を張っても、誰も得をしません。
長いから大叩きしても言い訳になると思っているのかと邪推してしまいそうな未熟なゴルファーが後ろのティーを使うのは本人のためにもなりませんし、周囲に迷惑をかける可能性も高くなります。飛ぶ飛ばないではなく、腕前や時短プレーが出来る自信があるゴルファーが集まったときに検討すれば良いことです。
組合せの中に、一人でもバックティーを使うことに問題がある場合は、同伴競技者はその人に合わせて前のティーを選択しましょう。そういう心遣いこそがゴルフの精神なのです。
ティーは多弁です。ゴルファーの姿を最悪の形でさらけ出すことがあるからです。でも、恐れることはありません。奇妙な伝説やくだらない見栄に惑わされずに、上手に色々なティーを楽しめば良いのです。
ティーアップできる幸せを謳歌しましょう。