チノ・クロスと呼ばれる綿やポリエステルで作られた生地のズボンがチノパンです。最近では、ゴルフ用スラックスという名称で市場に出ていることもあります。

元々はカーキ色(薄茶色)だったのですが、現在では多様なカラーバリエーションやストレッチ機能の向上もあり、まさにゴルフウェアとして主流になりつつあります。オールドゴルファーも知らない内に、チノパンをメインパンツとして使用していることもよくある話になってきました。

チノパンは、Gパンと同じように作業着として広く使用されていた経緯があるのに、どうして禁止されるどころか、主流のウエアになっていったのでしょうか?

チノパンの数奇な運命を巡る

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19世紀の中頃、イギリスの植民地だったインドに駐屯していた司令官のハリー・ラムデン卿は悩んでいました。当時のイギリスの軍服は純白だったのですが、現地の砂埃のせいで部下たちの軍服が汚れてしまうのです。対策として考案されたのは、最初から汚れが目立たない色に軍服を染めてしまうことでした。

コーヒーやカレー粉や木の実など、試作を重ねて完成したのは1848年でした。黄褐色の軍服をインド人は『カーキ(khaki)』と呼んだのです。ちなみに、カーキとはヒンディー語で「ホコリの色」という意味です。カーキ色の軍服は、戦場で周囲と馴染んで、カムフラージュ効果もあり、大好評となりました。

1880年代には、イギリス陸軍全軍に正式に採用されたのです。全陸軍の軍服をまかなうために、マンチェスターの繊維工場はカーキ色のコットンツイル(木綿で丈夫な生地)を大量生産しましたが、作りすぎてしまって、余った生地を中国に輸出したのです。

ちょうど第一次世界大戦直前のことでした。フィリピンに駐屯していたアメリカ軍は軍服用として、中国からその生地を購入して、アメリカ陸軍の軍服の生地として正式採用しました。アメリカ軍は、中国から買った生地なので『チノ(chino)』と命名したのです。

第二次世界大戦の後、冷戦に突入していく中で、アメリカ軍は世界最強の軍隊であるとアピールする必要がありました。陸軍の軍服は、勝利の象徴として扱われるようになり、『チノズ(chinos)』としてチノパン全体を意味するようになっていくのです。

丈夫であることから、アメリカ国内では工場などの作業着としても採用されて広まっていきます。奇しくも、汚れても洗えるズボンとして便利なことから、ゴルフウェアとして着るアメリカンゴルファーも増えていき、素材の進化などもあって、プロゴルファーも着用するこようになっていきました。

アメリカは歴史が浅い国ですが、伝統を蔑ろにはしないという不文律があります。チノパンの歴史を調査してみると、ゴルフが育ったイギリスの陸軍で生まれたものだということがわかり、見た目もスラックスと変わらないことからゴルフウェアとして躊躇ない普及が始まったのが20世紀の終わりの頃だったのです。

チノパンの効果を知ろう!

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利便性が高いということを優先すればGパンも同じように認められそうですけど、一筋縄ではいかないようです。チノパンの場合は、イギリス陸軍の軍服が由来していることもあるでしょうし、見た目が普通のスラックスと変わらない点も大きい要素だったと考えられます。

20世紀末、日本では一部のコースにおいてチノパンはNGという張り紙があったのも事実なので、今でもチノパンに抵抗があるというオールドゴルファーもいます。ゴルフのドレスコードでGパンが認められる日が、いつの日か来るという予測もあります。

日本人は生真面目で、理由を知らずともお上からのお達しがあれば、盲目的にそれに従う傾向があります。ゴルフコースのドレスコードも同様で、名門コースのそれを伝言ゲームのように真似てきた情けない歴史だったりするのです。

欧米では、20世紀からゴルフのドレスコードの明確な基準があります。それまでは厳禁だった服も、イギリスの王室関係者が、公の場で着用してゴルフをすることで解禁となってきたのです。近年でも事例がありますし、ファッション史の手引き書の一つである『エスカイア版20世紀メンズ・ファッション百科事典』にも経緯がハッキリと書かれています。

基準があることは、非常にわかりやすいのですが、一夜にして、それまでの常識が変わるということがあるのです。その分、王室関係者の役割は重要になるので、見識者の意見などを集約して、個人の思いつきやうっかりで新しい基準が勝手に出されないような仕組みが機能しているといわれています。

強制されることに反発する気持ちだけで、ドレスコードに目くじらを立てる人がいます。本当にオシャレであれば、制限の中でこそ、その才能が発揮されることは当然であり、腕の見せ所なのに…… お里が知れるのは、ゴルフの残酷な側面なのかもしれません。

ゴルフクラブのスペックにはコンマの数字にまでこだわる繊細なゴルファーが、ゴルフウェアには無頓着だったりすることに驚かされることがあります。動きづらいウェアは、コンマの精度にこだわるゴルフに確実に影響するはずだからです。逆に考えれば、動きやすいウェアは、多少の問題ならどうにかしてくれそうです。

チノパンは、以前、日本国内では綿パンと呼ばれていました。現在では、本当にたくさんの種類のチノパンが市場にあります。安価で入手できるゴルファー向けのスラックスも、厳密にはチノパンであることが多々あります。

驚くほど動きやすいズボンは、ゴルフを本当に楽にしてくれます。動きやすいゴルファー用のチノパンでプレーしてみましょう。下半身がリードしやすい状況を作り出すことで、想像以上に、スイングに良い効果があります。

もっとわかりやすいこともあります。グリーン上でラインを読むのに屈む際にも、ストレッチが効いているものは楽なので、ラインを読むことに集中しやすくなります。

チノパンの歴史を知った上で、勝利の象徴であることを意識すれば……。クラブを買い替えたのと同等のプラスが生まれても、なんら不思議なことではないのです。