【ゴルフ場利用税】廃止できるの?歴史を振り返って考察してみた
「ゴルフってスポーツなの?それとも娯楽なの?」という問いかけをときどき耳にします。
人によって千差万別な回答がある問いですが、そもそもなんでこんな疑問が生まれるようになったのでしょうか。
それには、実は「ふかーいカラクリ」があるんです。
「ゴルフはスポーツか娯楽か」という問題は、プレイヤーやゴルフ場だけで決められることではなく、「ゴルフ場利用税」に絡んだ政治的な問題が絡んできます。
今回は、プレイヤー視点ではなかなか気付けない、ちょっとドロドロした業界のお話をしていきます。
ゴルフ場利用税の歴史的背景をひも解きながら、廃止はできるのか、できたとしてプレイヤーは恩恵を受けられるのか、ひとつずつ考えていきましょう。
目次
【ゴルフ場利用税の歴史】敵性娯楽としての背景
まずはゴルフ場利用税について簡単に説明します。
国がゴルフ場から税金を取り始めたのは、昭和13年のことです。
満州事変が昭和6年、ラストエンペラー即位が昭和9年、泥沼の日中全面戦争へ突入したのが昭和12年のことですから、最初は戦費調達を目的として定められたようです。
当時、欧米から入ってきたゴルフはいわば「敵性娯楽」でした。
そんなゴルフに対する厳しい目はエスカレートしていき、昭和18年には90%課税、翌昭和19年にはなんと150%まで税率を引き上げられています。
現代の貨幣価値で考えてみると、1万円のプレイフィ対して税金が1万5000円かかり、合計で2万5000円も支払うことになります。これはほぼ「時節がら止めよ」というお達しだったと考えられます。
戦争終結後しばらくは、ゴルフ場を接収した進駐軍に利用税を支払っていましたが、昭和25年には都道府県への地方税になりました。消費税が施行された平成元年までは「娯楽施設利用税」という名称であり、ゴルフがスポーツではなく娯楽とみなされていた歴史的背景がうかがえますね。
税額はゴルフ場の規模や設備によって変動し、税収の7割はゴルフ場の所在する市区町村に交付されています。
二重課税はなぜ撤廃されないのか?
さて、そんなゴルフ場利用税を払っているのは誰なのでしょうか?
この答えは簡単です。ゴルフ料金にゴルフ場利用税が入っているので、疑う余地なくわたしたちプレイヤーが支払っています。
ゴルフは適性娯楽でなくなったし、ゴルフ場も進駐軍のものでなくなったのに、なぜ自分たちが利用税を払わなくちゃいけないのかって?
それは、ゴルファーには税金を余分に支払うことができる「担税力」があると国が判断しているからです。
なんと理不尽な!と怒る方もいますよね。
消費税を払っているのに利用税まで、と考えると、なんだか釈然としない気持ちになります。だって消費税と利用税は同じ間接税なのですから、1つのサービスに対して二重課税されていることになります。
「お金持ちのスポーツ」というイメージが強いゴルフですが、ごく平均的な所得のゴルファーも珍しくありませんよね。ゴルファーだから税負担が大きくても大丈夫、なんて一概に言い切ることはできないはずです。
もしかしたら、ダブル課税になっていることを知らないゴルファーも多いのかもしれません。そしてその原因は、ゴルフ場がコミコミ料金にしているからかもしれません。
不満の声が多くなったら撤廃される可能性があるかもしれないのに、そもそも利用税について知る機会が少ないのはいかがなものでしょうか。
……では、税金を払っていることを知らせる努力をしていないゴルフ場が悪い、ということになるのでしょうか?
しかし、そんなに単純な話ではありません。
ゴルフ場は身銭を切って税金を支払っている?
「お前が悪い」と言われると、立つ瀬がないのはゴルフ場です。内税にしているということは、実質の税金を支払っているのはゴルフ場なのですから……。
ゴルフ場利用税の平均課税額は、1人あたり800円、上限は1200円です。
仮に800円だった場合、ラウンドを回っていて「今日は空いているなー」と感じる1日180名程度だったとしても、年間5250万円の税金がかかっています。さらに1200円だった場合なら、1年間の納付額は7880万円です。
この負担はゴルフ場にとってもかなり重いらしく、過去にはちょっと信じられないやり方で節税に取り組んだ事例もあります。
ゴルフ場は、プレイヤーが支払った利用税を集めて納める「特別徴収義務者」に指定されます。簡単に言うと、税務署の徴収係と同じような役割をしているわけです。
本当はこの仕事を断ることはできないのですが、変わり者が多いゴルフ場の経営者の一人が、なんと「徴収する人手がないから自分たちで集めてくれ。徴収用のデスクスペースは割安で貸すから」と言い出したそうです。
これにはほとんど実入りの無い都道府県の関税課はビックリ!
結果、ゴルフ場が徴収する代わりに税額は半額になったそうです。都道府県の関税課は苦労したことだろうと思いますが、その一方で、イチャモンを付けてまで利用税を安くしたいほど負担が重いのだとも考えられます。
ゴルフ場利用税の廃止は誰が決められるのか?
ゴルフ業界の多くの人が廃止を希望しているゴルフ場利用税ですが、ときどき話題に挙がることはあれど、なかなか廃止はされません。
その理由は「霞ヶ関」にある、と言う人もいるようです。
スポーツは文部科学省の所轄ですが、ゴルフ場は経済産業省の所管です。
そして国体競技になろうとオリンピック種目になろうと「スポーツ」と公的に認められないのは、利用税の所管である総務省の力が経産省や文科省に及んでいるからなのかもしれません。
ゴルフ場利用税は、国が法律を定めて、都道府県が税額を決めて徴収し、税額の多くを市町村が受け取ります。ですから、経産省や総務省だけで廃止に関する意見をまとめることができないし、まして文科省が口をはさむことも難しいといえる状況なのです。
地方振興のひとつとして気軽に与えられたゴルフ場利用税ですが、今や誰も手を出すことのできない複雑な税になってしまっています。
比喩に使われるゴルフ場利用税の悲劇
2014年11月4日、国会の予算委員会でゴルフ場利用税の廃止について取り上げた委員がいました。
答弁に立った文科大臣はスルーしましたが、麻生太郎財務大臣や安倍晋三首相は、法改正について容認と取れる発言をしています。業界悲願の瞬間でしたが、識者には「衆院解散がある」と思わせることになりました。
なぜゴルフ場利用税廃止が解散風に影響するかというと、基本的に、税改正には自民党税調と政府税調が検討し総理に答申することが慣例となっているからです。
たとえ総理大臣であっても、税調を無視して法改正はできないと言われています。ですからこの答弁は、「税調の判断を仰がなくても税制改革を内閣総理大臣が決定する」と宣言した、いわゆるクーデター的な場面だったのです。
ゴルフ場利用税廃止には、代替財源となり得る消費税増税のタイミングが最良と言われてきましたが、識者は総理が利用税撤廃を比喩に使って消費税増税の先送りを示唆したと深読みしたようです。
というわけで、まだ当分ゴルフ場利用税の撤廃は見込めない、というのが現実でしょう。
なお、実際にゴルフ場利用税が撤廃されたとしても、浮いたお金はゴルフ場の赤字補填に回されることになるでしょう。そのため、プレイヤー個人が恩恵を受けることはあまり期待できないかもしれません。
また、予算委員会での答弁を受けて、ゴルファー以外の人たちからは「ゴルフ関係者しか恩恵が受けられないゴルフ場利用税の撤廃より先にガソリンの二重課税を改めてほしい」といった声も出ています。
戦費調達として始まって、複雑な経緯を経て現在の形に落ち着いている「ゴルフ場利用税」。
あなたはゴルフ場利用税の撤廃に、賛成ですか?反対ですか?
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