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ゴルファー生命を断つ難病イップスとは?

1メートルのショートパットがグリーンの外まで出てしまう、あるいは10メートルのロングパットを1メートルしか打てなかった。そんな経験をしたアマチュアゴルファーはほとんどいないはずです。

ところが、名手といわれた多くのプロゴルファーがこのような経験を持っているのです。皆さんも一度は聞いたことがあるかと思いますが、通称「イップス」です。

イップスというのは、パッティングの際、緊張のあまり手が動かなくなる現象です。イップスという英語はYipsと綴りますが、普通の英和辞典には載っていません。それどころか最も権威のある「オックスフォード・ディクショナリー」にも出ていないようですから、ゴルフの専門用語なのでしょう。

しかし、アメリカの「ゴルフ用語歴史辞典」には収録されており、それによると、Yipsとは「パッティングやその他のプレーにおける慢性的で神経質な緊張」と書かれています。また動詞で使われる場合はYipという形で使われています。

名手サム・スニードもイップスだった

サム・スニードは著書の中で、「クロスハンドも試したが、やはりイップしてしまうんだ」と述べています。サム・スニードは今更説明するまでもない偉大なプロゴルファーですが、若い人たちのために、スニードのキャリアを紹介しておきましょう。

1912年生まれのアメリカ人です。全米オープンのタイトルこそ獲れませんでしたが、その活躍は第2次世界大戦を挟んで、3つのメジャータイトルを含む135勝を挙げたゴルフ界の大巨人です。1965年には52歳でツアー優勝しています。もちろん、現在のPGAツアーの最年長記録になっています。

しかし、彼もパッティングでのイップスに苦しんで、クロスハンド・グリップを試したり、いち早く長尺パターを取り入れたり、苦労しました。ボールの後方に屈んでパターを押し出すように独特なパッティング・スタイルのサイドサドルを編み出しました。80年代に来日したときも、そのスタイルを披露して話題になりました。

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イップス第1号はトミー・アーマー

「イップス」という言葉を最初に使用したのは、トミー・アーマーとされています。アーマーの名前は今も名器のクラブとして、その名を残していますが、1896年、スコットランドのエジンバラ出身のプロゴルファーです。

1920年代にゴルフが盛んになったアメリカに移民してきました。当時はスコットランドやイングランドから多くのゴルファーがアメリカに押し寄せてきた時代だったのです。

アーマーもその一人で、1927年には全米オープンのタイトルを獲り、31年には母国で全英オープンも制しています。ところが、突然勝てなくなり、ツアーから撤退し、レッスンプロ、クラブ製作の仕事に入りました。その原因はパッティングでのイップスでした。

イップスになりやすいボールストライカー

イップス病に襲われた過去の名プレーヤーたちを見ると、共通するものがあります。それはサム・スニードを始め、アイアンの名手、つまりボールストライカーたちです。

余談ですが長い間ジャンボ尾崎の愛用パターであった「マグレガーIMG5」のIMGとは「アイアン・マスター・グースネックの35インチ」という意味です。そして、アイアン・マスターとはトミー・アーマーのニックネームなのです。彼の作ったアイアン・クラブはキャビティバック・アイアンが登場するまで、長い間プロ、アマチュアの上級者に人気のクラブでした。

ボールストライカーの歴史的な名手ベン・ホーガンもイップス病患者でした。1953年にはマスターズ、全米オープン、全英オープンとメジャートーナメントに3勝を挙げました。ところが、彼の勝利はそこで終焉を迎えてしまうのです。

翌54年にはマスターズのプレーオフで敗れ、56年には全米オープンのプレーオフの最終ホールで3パットをして敗れました。ホーガンの敗因もイップスだったのです。

近年ではトム・ワトソンとベルンハルト・ランガー のイップスも有名です。どちらも切れのいいアイアンショットのゴルファーです。ランガー もクロスハンド・グリップにしたり、長尺パターにしたりしていましたよね。ワトソンの新帝王時代というのもあまり長く続きませんでした。やはり、イップスに原因がありました。

日本にもいます。湯原信光が有名ですね。シャープなアイアンショットでレギュラー時代はパーオン率の高さは常に上位にランクされていましたが、パッティングはというと、まったくいい数字が残っていません。パッティングに自信がもう少しあったら、当時のAONをもっと脅かす存在であったはずです。

マジメ人間がイップスになる?

ゴルファーには理論派と感覚派と呼ばれる2つのタイプがいます。アイアンショットは理論的に詰めて、スイングを洗練させていくことができますが、パッティングにはこれだというスタイルがありません。いわゆる「パットに型なし」ですね。

パッティングは感覚を頼りにしなければなりません。前述のボールストライカーはフィーリングよりも理論、つまりマジメにスイングやパッティングを突き詰めていくタイプだったから、イップスに陥ったといわれています。構えたと思ったら、すぐにボールをヒットしていた感覚派の代表選手リー・トレビノはこう言っています。「時間をかけると、考えてしまうじゃないか」と。

青木功の場合、「しゃんめい」という言葉で、失敗の原因を運、不運になすりつけます。このタイプは失敗の原因を過度に背負い込まないから、すぐにリセットできます。ゴルフというスポーツは成功よりも失敗のほうがはるかに多いスポーツです。個人の努力ですべてを背負い込むことはできないんだと考えたほうがいいのではないでしょうか?

月イチゴルファーにイップスはいない

イップスはベテランのマジメなアイアンショットの名手がなりやすいのであって、我々アマチュアゴルファー、特に月イチゴルファーを襲うことはありません。あなたがベテランでゴルフに生真面目過ぎて、求道的なゴルファーならば別ですが。

月イチゴルファーのあなたがグリーン上で「イップスになっちゃったみたい」と感じたら、それは距離感の悪いただのノーカンプレーヤーと思って間違いないですよ。(笑)

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