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松山英樹と石川遼の光と影、日本のエースの今と未来

松山の優勝は決して楽なものではありませんでした。

2017年2月5日ウェイストマネジメント フェニックスオープン最終日、首位に4打差、3位からスタートした松山は1イーグル、3バーディーの猛チャージで66を出し首位に並び、プレーオフへ。4ホール目に劇的なバーディーで逆転優勝を決めました。

今大会の勝因は、ドライバー、アイアンが安定していたことにつきますが、その象徴が3日目、16番(163ヤード、パー3)名物ホールでした。ウェッジで打ったティーショットがピンそば30センチへ。20万人を記録したギャラリーからはうなりのような大歓声が上がりました。

この1打は、米ツアー公式サイトが選ぶ前週で最も印象的だった最高のプレーと賞される「ショット・オブ・ザ・ウイーク」で1位となりました。今大会ではギャラリーからも「ヒデキ」との声援があがり、まさに松山は世界を代表とするプレーヤーの一員となったのです。

無愛想も評価!?

すでに日本のメディアはおなじみになっていますが、今回は欧米メディアも松山の「ある特徴」に気づいたようです。

松山の優勝コメントは、

「良いプレーかどうは分からないですけど。勝つことができてうれしいです」

でした。初日から彼のコメントを振り返ります。

初日1打差2位
「どうしていいスコアが出るのか自分でもわからない」

2日目1打差3位
「ショットの感触はあまり良くなかった。パットが入ってくれることを祈りながらプレーしたい」

3日目4打差3位
「ティーショットとパット、アプローチが足を引っ張った」

どう聞いても、無感情というか、無愛想。まして、優勝争いの最前線にいる選手の言葉とは思えません。

テレビ中継でも、グリーンでいい位置につけながらムスッとした表情でグリーンに向かう松山に、アナウンサーも苦笑いする始末。もはや、松山のキャラにさえなっているようです。

ショットは最高の出来

無愛想な言葉の陰に隠れて、今大会の松山は著しい成長を見せました。昨季のドライバー飛距離は、米ツアー65位の294.5ヤードでしたが、今季はこれまで305.7ヤードと10ヤード以上飛距離を伸ばし23位につけています。

特に最終ラウンドの18番ホールでのドライバーショットは357ヤードとピンまでの残り距離はたった74ヤード。しかし、本人はドライバーの飛距離について「地面が硬い」「風がフォロー」とぶっきらぼうな返事で好調を認めたがらないのです。

これには理由がありそうです。今季松山が使っているドライバーのメーカーは現在用具契約を結んでいるものとは違うメーカーを使用しています。そのため契約メーカーへの遠慮から飛距離についてのコメントを避けているようなのです。

しかし、今年の松山のドライバーの進化は単に「メーカーの違い」と言えるような差ではなさそうです。脚力、腕力、背筋から体幹といった長年取り組んできたボディバランスが、「ゴルフをするための体作り」の目標に近づいているのです。

もちろん、松山自身の目標は現時点でのゴルフに満足するものではありません。そのため、無愛想なコメントにもなります。どうせなら聞いてみたいものです。4月のマスターズで初優勝を飾る松山の優勝コメントを。

「ぼくのゴルフはまだまだです」

今ひとつかみ合わない石川だが、今季は一味違う

予選落ちした石川もチャレンジしていました。

決勝ラウンド進出を目指した2日目、17位でスタート。12番(パー3)で左のバンカーにつかまりボギーが先行すると、続く13番ロングホール(パー5)で2オンにチャレンジ。バーディーを奪いますが、後半の1番でバーディーも4番、5番連続ボギーと、出入りの激しいプレーで3日目には進めませんでした。

今季、石川が圧巻のプレーを見せたのは1月29日に終了したファーマーズ・インシュランス・オープン2日目でした。スタートの10番から連続バーディー。14番では15mを沈めて3つ目のバーディー。アウト9ホールでスコアを3つ縮めました。ドライバーとアイアン、さらにパットがかみ合った9ホールでした。

インでは2番でドライバーを右に曲げてしまい、そこから連続ボギー。昨年までの石川ならここからズルズルと崩れましたが、持ちこたえます。4番は引っ掛けると危険なドライバーも逃げずに打ち切ってフェアウェイへ。2打目で1.5mにつけ、バーディーを取り返します。

価値ある全選手トップの8バーディー

結局最終9番ロングも3打目をピンそばに寄せ、バーディーでフィニッシュ。8バーディー、4ボギーの68とし、117位から一気に順位を上げ35位タイで予選を通過しました。

出入りが多かったとはいえ、8バーディーは出場選手で1番。ちなみに、今大会には松山を始め、ジェイソン・デイ、ダスティン・ジョンソンら一流選手が参加していました。

今季の石川は初戦のCIBMクラシックで10位タイに入りますが、これまで6戦して予選落ちが2試合、残りは低迷します。しかし、そのプレーはまさに「もがく」という表現があてはまります。

ティーショットでOBを出してトリプルを叩いたかと思えば、そこから連続バーディーで粘ったりと、出入りの激しいプレーの中に、自分のスタイルを模索しているようです。

何より昨年と違って、悪くなっても踏ん張れる要因の一つに、パッティングがあります。6戦中2試合で、パット数は20台と好調をキープしています。本人もドライバーとアイアンが噛み合えば、いいプレーになることはファーマーズ・インシュランス・オープンの2日目で確信しているようです。

石川と松山の「光」と「影」の交錯

現在25歳と同学年の松山と石川。高校生ながら日本のプロゴルフ大会で史上最年少優勝を飾った石川は一躍スターダムに駆け上がります。2008年には16歳3ヶ月24日で史上最年少のツアープロへ。同年にプロ初優勝も上げ、年間賞金総額も1億円を突破しました。

2009年には18歳80日で年間最年少賞金王を獲得、2010年5月には日本男子ツアー史上最短、さらに最年少で賞金総額が3億円を突破します。まさに「光」を全身から発していた石川は2013年から主戦場をアメリカに移しました。

松山が注目されたのは、東北福祉大時代アマチュアで2011年のマスターズに出場し、日本人として初めてローアマチュアを獲得した時です。さらに、同年11月には三井住友VISAマスターズで石川に次いで3人目のアマチュアによるプロツアー優勝を果たします。それでも、当時石川一色だったゴルフ界にとって、「影」の存在でもありました。

石川がアメリカに移った2013年に松山がプロ入りします。ルーキーイヤーで全米オープン10位タイ、全英オープン6位タイと、それぞれ初出場ながら好成績を上げます。石川はこの年、米ツアー24試合に出場して、2位タイが最高ながら10位以内は2試合だけでした。

2014年、二人の位置が微妙にずれていきます。石川は米ツアー24試合に出場するも、7位タイが最高で10位以内に入ったのは2試合だけ。予選落ちも9試合ありました。一方、この年から米ツアー本格参戦した松山は6月始めのメモリアル・トーナメントで日本人4人目となるPGAツアーを果たしました。

世界で戦うために、飛距離アップを目指しスイング改造を図った石川はなかなか成績を挙げられませんでした。さらに、体調を悪化させるなど、2016年には腰痛で長期離脱を余儀なくされます。松山は2016年にはPGAツアーで2勝するなど、安定した成績を残してきました。現在、「光」の松山に対して、石川は「影」と二人の位置が逆転しました。

二人の未来は

現在、2月5日付けのゴルフ世界ランキングは松山が5位、石川が109位と二人の差は歴然です。しかし、松山の石川に対するリスペクトが変わることはありません。昨年11月、ISPSハンダゴルフW杯で、日本人最高のランキングで出場する松山が選んだパートナーは下位に低迷していた石川でした。石川より上位の日本選手を選ばずに。

松山は石川を選んだ理由について、「何でって言われても困るんですが・・・遼は自分とは違うものを持っている。具体的に何かはうまく表現できないけど、そういう選手と組んだ時に新しいものが生まれるかもしれないし、チャンスはかなり広がるんじゃないかと思う」と話していました。

もちろん石川もかつて世界ランキング上位の位置を占めました。その位置から落ちてさらに戦いを続ける石川の価値を、松山が一番知っているのでしょう。W杯で相談しながらコースで戦い、二人のフィーリングが交錯したラウンドは、今季の松山、石川にとって大きな財産になったと思いたいものです。

二人がメジャー最終日の最終ラウンドを最終組で回る姿を、W杯で共に戦って優勝を、そして東京五輪の金メダルを。願っているのは、二人だけではないはずです。

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