ニューヒロイン畑岡奈紗のスイングは世界トップレベル
日本女子オープン最終日の18番グリーンで、パーパットを決めてガッツポーズを見せた畑岡本人には数々の記録を達成した快挙の実感はなかったのでしょう。笑顔こそ見せましたが、淡々と喜びを味わっていたように見えました。
日本女子オープン2連覇は樋口久子以来の40年ぶり。この大会連覇とプロ初優勝となった前週のミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープンゴルフトーナメントからの2週連続優勝をメジャーで達成するのは史上初めて。
さらに女子メジャー4日間で20アンダー、268のスコアはこれまでの記録を6打縮める最少ストローク。女子メジャー2勝目も18歳261日の最年少記録を更新しました。女子ツアー3勝目を18歳261日で成し遂げたのも同様に最年少記録です。
10月8日終了したスタンレーレディスゴルフトーナメントは6位タイに終わり、3週連続優勝とはなりませんでした。圧倒的な強さで打ち立てた数々の記録は、まさに新たなヒロインの存在を見せつけました。
宇宙に挑戦する名前
畑岡の名前「奈紗(なさ)」はアメリカ航空宇宙局(NASA)にちなんで、「前人未到のことをするように」との思いを込めてつけられました。その思いはすでに半分以上達成させられたかのようです。
畑岡は茨城県笠間市出身で、同市にあるゴルフ場に勤務する母親の影響で11歳からクラブを握りました。中学時代に中嶋常幸が指導する「ヒルズゴルフ・トミーアカデミー」に入門し、その才能を開花させました。
高校2年の2015年には世界ジュニアゴルフ選手権、国体と続けて個人、団体の2冠を達成しました。翌年の2016年には世界ジュニアゴルフ選手権で連覇を飾ると、10月の日本女子オープンで国内メジャー史上初のアマチュア優勝を達成。その直後にはプロ転向を表明し、宮里藍の記録(18歳110日)を抜いて日本人史上最年少の17歳271日で女子プロとなりました。
まさに、ロケット並みのスピードで、日本のトップクラスに躍り出て、「宇宙」という名の世界へ羽ばたこうとしています。
畑岡の武器ドライバーの秘密はジャンプ・スイング
畑岡の最大の武器はドライバーの飛距離です。158センチの小柄ながら、260~270ヤードの飛距離は世界トップクラス。そのスイングの特徴は下半身にあり、インパクトでほぼ両足が地面から離れる「ジャンプ・スイング」にあります。
これは地面を蹴り上げ跳ね返る力を回転の力に変えることで、腰を回したり腕を振る自分の力以上のパワーをスイングに生かすやり方です。動画を見ると、畑岡はインパクトの直前に両足のかかとが浮き上がる動きをしています。
もちろん、ただ浮かび上がることで飛距離が伸びるわけではありません。安定した下半身で柔らかく体を使えるので、アドレスの前傾角度がまったく変わらず体を深くひねることができます。上半身のひねりを右ひざで受け止めているので、右半身が伸びあがらず、低いトップスイングの位置をキープできます。
これができる若い女子プロはほとんどいません。飛距離の出る男子プロ並みのバックスイングは、かつての岡本綾子や、現在は女子のレクシー・トンプソン、男子のジャスティン・トーマスを彷彿させます。
畑岡のスイングチェックは両ワキ
畑岡はある雑誌の記事で自身のスイングを安定させるには「両ワキが開かないこと」と言っています。飛ばそうと思えば思うほど、バックスイングで右ワキが、フォローで左ワキが開いてしまい、スイング軌道がばらばらになり、ヘッドスピードも落ちてしまいます。
これを防ぐために、畑岡が実行しているのは、両ワキにタオルを挟んでスイングをする練習です。バックスイングでは右ワキが、フォローでは左ワキでタオルを挟み落ちないようにスイングします。
もちろん、フルスイングをするとタオルは落ちてしまうので、だいたい7割ぐらいの力で振ります。実際にやってみると、7割の力でスイングしても、腕と体の動きがシンクロするので、飛距離がそれほど落ちません。それだけ、両ワキをしめてスイングすることの重要さがわかります。
もちろん、実際のスイングでは両ワキが少し開きますが、意識の中で両ワキを開かない感覚を持つことで、スイングの軌道、ボールの方向性が安定します。
畑岡のクラブセッティング
前週のミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープンゴルフトーナメントから、日本女子オープンまで使用クラブは変わっていませんでした。特に日本女子オープンでは、1ラウンドの平均パット数が27.25とフィールド2位。パットが好調だったのも勝因でした。
<ドライバー>
ダンロップ スリクソン Z765 ドライバー(ロフト10.5度)
シャフト:UST マミヤ ATTAS G7(長さ45インチ、硬さ6S)
<フェアウェイウッド>
ダンロップ スリクソン Z F65 フェアウェイウッド(3番ロフト15度)
<ユーティリティ>
ダンロップ スリクソン ハイブリッド ユーティリティ(3番ロフト19度)
ダンロップ スリクソン Z U65 ユーティリティ(4番)
<アイアン>
ダンロップ スリクソン Z745 アイアン(5番~PW)
<ウェッジ>
クリーブランド 588 RTX 2.0 プレシジョン フォージド ウェッジ(ロフト48度、54度、58度)
<パター>
ピン スコッツデールTR パター PIPER C
<ボール>
ダンロップ スリクソン Zスター ボール
(注)プロは頻繁にクラブ調整を行うため、実際使用するギアセッティングとは異なる場合があります。
来季の世界挑戦は準備万端で
畑岡は両ワキの意識でスイング軌道、ボールの方向性を安定させ、ジャンプ・スイングで飛距離を生みます。世界ランキング1位にもなったことのある宮里藍も、最後はドライバーで飛距離を出し、高い弾道でピンをデッドに攻める近代トーナメントの戦法に限界を感じてしまい、若くしての引退を決意しました。
畑岡は世界で戦える飛距離を持っています。2017年、新人として米ツアーに参加しましたが、17試合に臨み11試合で予選落ち。10位以内に一度も入れず、キャンビア・ポートランド・クラシック(9月3日)の15位タイが最高と賞金シードは獲得できませんでした。
「アメリカで戦う準備がうまく整わないのに行ってしまった」と畑岡自身も準備不足を認めています。それでも年末の米LPGA予選会に再挑戦し、来年のツアー出場を視野に入れて、すでに準備態勢に入っています。
宮里も米ツアー初年度から好成績を残したわけではりません。生活環境、語学力などがそろうにつれて、頭角を現してきました。宮里の果たせなかったメジャー優勝、賞金ランキングなどの目標を胸に、畑岡は来年世界のライバル達の中に飛び込みます。