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グリップはゴルファーの祖先を辿れるDNAだと知っていますか?/誰かに話したくなるおもしろゴルフ話

グリップは、クラブをしっかりと握れるように取り付けられた物質だとゴルフ規則では定義しています。

パターのグリップは自由度が高くなっていますが、それ以外は断面は円形で(一部の山型をつけるのは認められています)、先細りはOKですが、くびれや膨らみがあるものは違反になります。

あまり知られていませんが、太さも1.75インチ(44.45mm)以下でなければ違反です。他にも色々と規則があります。

グリップがついていなくとも規則上は良いのですけど、ここが握る部分だとわかるようにシャフトにデザインされた部分が必要になります。パターなどで、手に伝わる感触を良くするために、そのようなシャフトの素材がそのままグリップと一体になっているものが現在でも売られています。

細かいことをマニアックに覚えてもゴルフにプラスにはなりにくいので、パーツとしてのグリップで知っておくと良いと思われる話から紹介します。

パーツとしてのグリップ

グリップがクラブに装着された時期は正確にはわかっていませんが、16世紀には既に装着されていました。初期のゴルフクラブを作っていた武器職人は、弓などの持ち手を装飾することで他人の持ち物との違いを明確にしていました。

木製のシャフトを加工する際に持ち手の部分を装飾するのは、ごく自然な成り行きだったのでしょう。革を巻いたり、布を巻いたり、糸を巻いたり……現存するアンティークのクラブも様々な工夫が確認できます。

ヒッコリーがシャフトに採用されるようになった19世紀末。革巻きのグリップが主流になり、太さも現在のものに近くなります。これにはちゃんとした理由がありました。

ヒッコリーのシャフトは、大きくしなります。革巻きグリップの部分はコルクなど樹脂を何重に巻いて土台を作り、その上に革巻きをして仕上げをするものでした。クラブを握りやすくする工夫だったはすが、副産物としてグリップの部分だけ硬くなったことでしなりにくくなったのです。

先調子とか、手元調子とかのシャフトのどこが最も大きくしなるかというキックポイントは現在でもシャフト選びで重要ですが、この時代に、ゴルファーはグリップの長さの調整でボールの打ち出しの高さが変わるということに気が付いたのです。

この頃のグリップの画像を見ると、40センチを越えるような長いグリップがあります。これは球を上げやすくする工夫だったり、スイングのタイミングに合わせたものだったと推測できます。

革巻きのグリップは、シャフトが金属になっても主流のままでした。徐々にグリップの役割はクラブと手の接点として感触や耐久性が重要視されるようにはなりますが、1960年代まではグリップといえば革巻きのことでした。

革巻きのグリップは職人技で、量産ができませんでした。ゴルフクラブメーカーは、量産が可能な別のものを模索し続けました。現在のようなゴムを使ったグリップは、当初、革巻きに代わるものとして、焼き付けという方式で始まりました。熱でシャフトにゴムを焼き付けてしまうのです。

1947年に、アメリカで世界初のゴム製のグリップが開発されたのですけど、そのブランド名が“GolfPride”(ゴルフプライド)でした。現在でも、トップブランドとして市場に君臨しています。

1953年にアメリカのプロゴルファーが、ゴムホースを見て、それをグリップにしたら良いのでは、と閃いて作ったグリップが世に出ます。これが、現在の主流になっているスリッポン方式のグリップの始まりになります。ゴムではなく、“ラバーグリップ”と呼ぶようになります。スリッポン方式というのは、紐や留め具なしでスッと履けるシューズのスリッポンと同じで、シャフトに押し込んで入れることができるというものでした。

1970年代まで革巻きグリップをラバーグリップが追い抜けなかったのは、焼き付けたゴムグリップは耐久性が悪く、手が黒くなってしまったりもしたからだといわれています。つまりは、性能が劣っていたのです。しかし、スリッポン方式が誕生し、ゴムの合成技術が上がり、接着剤の進化や価格も下がったことで、革巻きグリップに代わるものとしてラバーグリップが主流になりました。

面白いことに、この頃からグリップの基本的なサイズは変わっていません。グリップの太さは、一応、グリップエンドから2インチの位置で測ることになっています。グリップに「M60」とか「L58」とかの記号がついています。Mとか、Lは男女の意味で、ブランドによっては他の記号もあります。

数字は、グリップの内径です。シャフトの直径は主に3つのサイズがあって、それぞれ、0.58インチ、0.60インチ、0.62インチなのですけど、シャフトの直径に内径の数字が合ったものを装着すると、出来上がったグリップの太さは同じサイズになるようにグリップの厚みが調整されているのです。

「58」はグリップの肉厚が厚く、「62」は薄くできています。現在、ほとんどのシャフトは0.60インチ直径なので、それに「58」というグリップを入れると、できあがりは少し太いグリップになります。

1980年代以前の日本製のクラブの多くは、0.58インチ直径のシャフトが採用されているのでグリップを交換する際は注意が必要ですし、古いパターなどで革巻きのグリップの場合はシャフトの直径が著しく細いことが多いので、現在のグリップを入れるのは一手間必要だったりします。

21世紀になって、グリップの素材は多種多様です。昔ながらの合成ゴムのラバーグリップが主流ですが、天然ゴムのもの、樹脂系の素材のもの、カラーも色々あります。このグリップの種類の多くは、日本市場独特のものだといわれています。

松山英樹プロが最初にアメリカツアーに参戦したときに、カラーグリップが珍しいと色々なメディアに紹介されたのは記憶に新しいところです。その後、松山プロは恥ずかしいからと黒をベースにしたグリップに変更しました。

グリップを替えるだけでも新品の気分を味わえると、グリップを交換する人がいます。グリップというのはクラブとゴルファーを直接繋ぐ大切な部分ですので、磨り減ったりしたまま使っているのは、ちょっと問題です。合成ゴムや天然ゴムのものは、中性洗剤で洗ってすぐに水気を拭き取り、風通りの良い場所で乾かせばかなりきれいになり、長持ちもするともいわれています。

パーツとしてのグリップを、時々はちゃんとチェックしましょう。手元が狂えば全てが狂ってしまうのは、用具を使用するゲームであれば当たり前です。普通のゴルフクラブなら交換は簡単にできますので、思い切って交換するのもありです。

握る方法としてのグリップ

ベースボールグリップ、または、テンフィンガーグリップは、最初のグリップだと言われています。握る方法としてのグリップは、黎明期のゴルフではあまり注目されませんでした。名手と讃えられていた選手の姿も、右手と左手の間に隙間があるセパレートグリップだったりします。

セントアンドリュースでゴルフを覚えたゴルファーは、長い間ゴルフ界の主流派でした。19世紀末になってボールがゴム素材になり、ヒッコリーシャフトが採用された用具の革命で状況が一転します。

それまでの横振りで手打ちスイングから、縦振りのアップライトな体幹の捻れを使ったスイングになっていきます。最新のスイングを身につけた、“イングランド派”と呼ばれるゴルファーが主役になっていくのです。

まずは、右手の小指と左手の人差し指を絡めた“インターロッキンググリップ”が誕生します。この誕生には諸説あります。イングランド派のアップライトな現在にも繋がるスイングで、ボールは過去に例がないほど高く上がるようになりました。

空中を飛ぶボールは、手の余計な動きで曲がるのは今も同じです。新しいグリップの誕生は、その対策だったと思われます。ゴルフ史最初のプロゴルファーといわれているアラン・ロバートソンが考案したという説。その弟子で伝説的なゴルファーになるトム・モリス・シニアが考案したという説もあります。

19世紀末になると、有名なゴルファーの写真が残っています。写真を見る限り、インターロッキングらしいグリップが採用されていることが確認できないのです。この頃の師弟関係や出身などは概ねわかっていますので後世から溯ることもできるのですが、そうなるとますます謎は深まってしまいます。それらのことを考えると、余計な手の動きを制御するために自然と発生したのがインターロッキングだったというのが説得力があり、最も真実に近いのかもしれません。

その後、生まれたのは右手の小指を左手の人差し指の上に乗せる“オーバーラッピンググリップ”です。これは、イングランド派の三巨人といわれた中の一人のハリー・バートンが指に怪我をしたときに応急処置的にやって偶然に発見されたという逸話が有名です。残念ながら、この話も伝聞の域を超えずに真偽は不明なのです。

ただ、全英オープンに6回優勝したバートンは、ゴルフのヒーローとして積極的に新世界だったアメリカ遠征に出向いて、大きな影響を残したのは事実です。マスターズを創設した伝説のアマチュア、B・ジョーンズも少年の時に遠征してきたバートンを見て衝撃を受けたと告白しています。オーバーラッピンググリップが広まっていったのは、この遠征が大きかったと分析する研究者もいます。

この功績が認められて、現在のアメリカツアーで年間の平均ストローク1位の選手に贈られるトロフィーはバートンのグリップを模した形をしていて、バートントロフィーと呼ばれています。

20世紀になると、米国がゴルフ界を引っ張っていくようになっていきます。そのベースはバートンであり、オーバーラッピンググリップなのです。この辺りの歴史の流れを証明する証拠は、日本のゴルフ黎明期にもあります。

日本のゴルフはイギリスから輸入されましたが、それはスコットランド派のゴルフでした。アメリカ留学から帰国した赤星兄弟は、日本のプロゴルファーに9ホールで4つのハンディキャップを与えても圧勝できました。第1回の日本オープンチャンピオンの赤星六郎は、日本のゴルフに最新のアメリカゴルフの流行を伝えたのです。

このときに、色々な記録が残っています。教えを請うたプロたちは、まずテンフィンガーグリップを最新のグリップに変更するように指導され、劇的にボールコントロールが良くなったそうです。

このときにプロの手の大きさを見て、赤星六郎は小さな手のプロはインターロッキンググリップ、大きなプロはオーバーラッピンググリップと指導したと伝わっています。それから100年が経ちましたが、通常のスイングでのグリップは大きな変化がありません。

パットのグリップは、どんどん新しいものが生まれています。逆オーバーラッピンググリップ(右手の小指に、左手の人差し指が乗る)、クロスハンドグリップ、リバースグリップ(右手と左手の上下を逆にする)、クローグリップ(グリップを挟むように持つ)他。

パットに悩めるゴルファーが多いことを裏付ける証拠でもあります。握り方としてのグリップは知ってみると近代ゴルフの歴史そのもので、ゴルファーのDNAでもあるのです。

グリップの方法は、ゴルファーからゴルファーに伝達されていきます。インターロッキンググリップは、セントアンドリュース派の流れをくみ、J・ニクラウス、タイガー・ウッズを経て現在に繋がっています。

オーバーラッピンググリップはイングランド派の流れをくみ、アメリカを渡って世界中に広まり、最も採用されているグリップになっています。

グリップのまとめ

あまり知られていませんが、ゴルフショップのベテラン店員は、ほぼ例外なく、クラブを握っている客を見た瞬間にいくつかの情報を得ることができます。代表的な情報は、グリップした形で下手はすぐにわかるということです。

スイングには色々な形がありますが、グリップに種類が少ないのは、それが理に適っているから大きな進化を必要としなかったからです。これだけはやってはダメだというタブーが、グリップにはいくつかあるのです。

また、ゴルフコースのキャディーも、スタート前からその日につく客のゴルフをある程度は予測します。クラブの本数や番手や銘柄などを確認する際にグリップを見て、磨り減っていたり、汚れたままになっている人は要注意だと聞きます。自己中心的だったり、だらしがなかったり、練習しても上手くならないタイプの人であることが多いそうです。

自分のグリップの握り方も、パーツとしての傷みや汚れもチェックしましょう。グリップの良いところは、大事なところなのに、気が付けばその場ですぐに修正、交換ができることです。

ゴルフは人間を剥き出しにするゲームです。悲しいことに、悪いところほど他人からは目立つものです。グリップからゴルフを見直すことは、もしかするとゴルフだけはなく、人間力をアップさせるきっかけになる可能性もあると楽しんで実行しましょう。

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