ジェット尾崎、純愛と家族との葛藤を乗り越え、今再びシニアツアーへ

尾崎健夫の呼び名「ジェット」は、まるでジェット機が離陸するかのようなドライバーショットの飛び方からつけられました。兄・将司の呼び名である「ジャンボ」も、プレースタイルが豪快なことに由来します。奇しくも飛行機で共通点があります。

実際、兄・将司とは経歴も似ています。兄は高校時代、徳島・海南高校野球部のエースとして活躍し、春の選抜甲子園で優勝しました。プロ野球・西鉄ライオンズに入団するも限界を感じ、ゴルフに転向。日本を代表するプレーヤーになりました。
健夫も甲子園経験はないものの海南高野球部でエースを務め、剛速球投手として素質は兄以上とも言われました。ドラフト会議でヤクルトから3位指名を受けましたが、兄と同じ道を選びプロゴルファーになります。JPGAツアーでは10勝、シニアツアーでも5勝と、息の長い選手として活躍しています。

2012年8月に、ジェット尾崎は女優の坂口良子さんと結婚します。事実婚状態が10年以上続いての晴れやかな場。しかし、良子さんはすでに1年以上前から大腸ガンに蝕まれていたのです。2人には覚悟の上での結婚でした。早く結婚できなかったのは、良子さんの娘でタレントの坂口杏里さんが結婚に反対していたからでした。

良子さんは1994年に前夫と離婚していますが、知らないうちに不動産業者だった前夫の連帯保証人とされていました。バブル崩壊で良子さんは40億円もの借金を背負ってしまったのです。それでも、良子さんは芸能界で女優業を続けることで借金を返し続けました。そんな良子さんを精神的に支えたのが尾崎だったのです。

杏里さんが小学生だったころ、一緒に住むようになった尾崎に向かって「家から出ていけ！」と叫んだこともあったようです。杏里さんにとって、「大好きなママを知らないおじさんにとられる」との思いでした。

ガンが発覚した後も、良子さんと尾崎は病状を娘には話さないと決めていました。当時、タレント業が好調だった杏里さんに心配をかけたくないとの親心でした。良子さんは仕事先にも秘密にしていました。体調が悪く体重が激減しても、無理をしてテレビに出演していました。そうして念願の、覚悟の結婚式を挙げたのです。

そのわずか数か月後には良子さんの容態が悪化します。その時から健夫はクラブも握らず、つきっきりの看病を続けたのです。この当時も、杏里さんに本当の病状を話すことができませんでした。尾崎も悩みながら「ママは腸閉塞だから。手術で治るから」としか言えませんでした。杏里さんが病院に駆け付けた時、すでに良子さんは言葉も返せない状態でした。

最愛のママを奪った尾崎を杏里さんは恨みます。「一生恨もうって思い。私が死ぬか、パピー（尾崎）を殺すかってくらい」と当時の気持ちを杏里さんはブログなどで告白しています。家族はバラバラになります。尾崎も良子さんと暮らしたマンションを整理し、独身時代のマンションへ。家財を売り払い、お金は杏里さんの口座へ預けました。

生前、良子さんは「私が死んでも杏里とは家族でいてほしい」と尾崎に伝えていました。何度も「子供の事をお願いします」と、母親としての心配を最後まで言い続けていたそうです。良子さんが亡くなった数か月後、良子さんと行きつけだった居酒屋に杏里さんを誘いました。最初はどう接していいわからない2人でしたが、尾崎は「自分にできることは、一緒に過ごして悲しみを分かち合うこと」と知人に漏らしています。

そして良子さんの死から3か月後、尾崎は再びシニアツアーに姿を見せました。練習を再開したのも大会の1週間前、大会までカートに乗って2ラウンドしただけでした。成績は通算14オーバーの69位と振るいませんでしたが、天国の良子さんへ復活した尾崎の雄姿を見せることができました。

その1か月後、都内の寿司店にいる尾崎と杏里さんの姿が目撃されました。2人は時折涙を見せながらも、仲良く寄り添っていたそうです。義父と娘として良い関係が築かれていったのでしょう。
そして翌年の2014年、尾崎はシニアツアー・コマツオープンで初日からすべて首位を走る完全優勝を遂げました。最終日、2位に2打差をつけた尾崎を猛追したのは弟の直道でした。5連続を含む6バーディーで一時は1打差と迫りましたが、尾崎は7バディー、2ボギーの67で逃げ切ります。

まだまだ頼りになる父の姿を、杏里さんに見せることができた勝利でした。新しい家族のためにプレーするジェットの姿は、シニアツアーで見守りましょう。