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熟練のゴルファーはフライパンでゴルフを料理する?/誰かに話したくなるおもしろゴルフ話

紀元前3500年頃に生まれたメソポタミア文明の遺跡から銅製のフライパンが出土したことから、フライパンは世界最古の調理器具の一つだといわれています。現在でも、焼く、炒める、揚げるを一つでこなす万能鍋として、フライパンは台所で大活躍しています。

ゴルフとフライパン……どんな関係があるのでしょうか。

アランの秘密兵器は”FLY PAN”だった?

“世界最初のプロゴルファー”といわれるアラン・ロバートソンは、単にゴルフの腕前で認められただけではなく、ゴルフ用具の職人としても超一流でした。彼の工房で製作されたフェザーボール(水鳥の羽根をギュウギュウに詰めて豚や牛の皮で覆ったゴルフ黎明期のボール)は、飛ぶことで有名で高値で取引されていたそうです。

もちろん、ゴルフに精通していて、現在のセントアンドリュースのオールドコースの基本的なレイアウトは、アランが決めたものだと伝えられています。プロゴルファーだけではなくコース設計者として名前を残したのも、アランが世界で最初だという説もあるのです。いずれにしても、彼はゴルフ史最初のヒーローゴルファーでした。

19世紀に大活躍したアランについては、色々な記録が残っています。彼が経営していたゴルフ工房は、形態は変わりましたが現在も商売をしています。ロマンチックさには欠けますが、アランはなかなかの商売人だったことも記録を見ると明らかです。

なんといってもアラン・ロバートソンの伝説で有名なのは、生涯を通してゴルフの対決で1回も負けたことがないということです。

アランが亡くなった後、誰が彼の後を継ぐのかをゴルフで決めようと弟子たちが真剣勝負をしました。これが、後になって第1回目の「全英オープン」となるのです。(第1回目にプロゴルファーのみしか参加していないのはそういう理由があったからで、アマチュアも参加できるようになるオープン競技になったのは第2回目から)

アラン・ロバートソンの逸話だけで本がたくさん書かれているほどなのでまとめるのは大変ですが、アランはそういうヒーローだったのです。

アランが活躍した時代は“ボールはあるがままにプレーする”というゴルフの精神は、既にルールと融合していました。当時はまだコースは荒れ地のような場所もたくさんあって、現在のゴルファーには考えられないほどの障害も存在していました。

セントアンドリュースの土地はゴルフコースでありながら、現在でも誰でも入れるエリアとして開放されています。当時は、もっと生活と密着していたのだと想像できます。良い所にボールが飛んでいったのに、馬車の通った轍にボールがはまったりするのは日常茶飯事でした。

当時はまだウッド型のクラブが主流で、鉄で作られた現在のアイアンのようなクラブは一般的ではありませんでしたが、木製では作れない形状の色々な鉄製のクラブが生まれました。熊手のような形状のものはたくさん製作されたようで、今も現存しています。多くは轍や荒れ地から脱出するためのクラブだったようです。鉄製の農具を作る鍛冶職人がゴルフヘッドも作っていたので、用途から農機具の影響がハッキリとわかります。

アランは轍にはまった絶対絶命の大ピンチから、何度も奇跡的なスーパーショットを放って逆転したりしたそうです。その時に使用していた鉄製のヘッドが付いたクラブが、“フライパン”という名称だったのです。

アランの秘密兵器であるフライパンは、ゴルファーの羨望の的となりました。“FLY PAN”と命名して彼の工房で売り出したところ、大ヒットしたそうです。アンティーククラブとして、”FLY PAN”は今でも現存します。

今でいうウェッジに近い化け物アイアンは、10センチくらいの直径の丸いフェースでした。フライパンは調理器具のフライパンに似ていたので、アランのゴルフを見た人が誰ともなく言い出して、商品名になったようです。

異論もありますが、この“FLY PAN”こそが、現在のウェッジやショートアイアンになったのだという説が個人的に大好きで、強く推したいと考えています。だって、ロマンを感じるでしょう?ゴルフはどこかしらお伽噺な部分があってこそ、その魅力を最大に発揮するのです。

アイアンとフライパンは違うもの?



鉄製の農具の普及で農業は飛躍的に生産性を向上させましたが、ゴルフ用具に鉄製のクラブが普及していくのは、農具よりかなりの時間が過ぎてからです。その理由は、使用しているボールに原因がありました。

動物の皮を縫い合わせて作ったボールは、現在のようなアイアンのヘッドでトップすると縫い目がほどけたり、革そのものが裂けたりして、すぐに破損してしまったのです。非常に高価なフェーザーボールを破損するのは避けたいので、ウッド型のクラブが主役だったわけです。

そんな事情があったので、アランの“FLY PAN”を使った妙技はボールを打つのではなく、周囲の土ごとごっそりと打ち出すような雰囲気だったのではないかと推測されます。わかりやすく現在で置き換えると、ボールが埋まってしまって目玉になっているバンカーからの脱出のようなものです。“FLY PAN”は、サンドウェッジのようなものだと思えてきます。

それは飛躍しすぎだと否定する勉強家のゴルファーもいるかもしれません。現在のウェッジの系譜は、ニブリックが源流だという考え方が定説だからです。

“niblick”は9番アイアンに相当するアイアンクラブの愛称です。意味は“潰れた鼻”。大きなロフトがつけられたアイアンヘッドは、ひん曲がった鼻のように見えたのでしょう。

ニブリックが、現在のウェッジになったという説は否定できません。天然ゴムでできたガッタパーチャボールを使用するようになると、トップしても切れないので、アイアンは十数年で現在のようなロフトの刻みになり、ゴルファーがコースに持ち込むクラブの多数派になりました。その中で、最もロフトが多いアイアンがニブリックです。

アイアンが急激にゴルファーに受け入れられたのは、距離の打ち分けに特化したからだと考えらます。現在でもアイアンの使用目的は距離の打ち分けで、原則としてフルショット用です。フルショット用に進化したニブリックを、色々な用途に使うのは簡単ではありませんでした。

アイアンは、例えるなら温めるために作られた調理器具だといえます。温め具合ごとに色々な種類が必要なのです。現代の調理器具でいえば、時間ごとの電子レンジみたいなイメージです。易しく調理することを目指して進化してきました。

フライパンは、調理器具としては万能鍋と分類されます。焼く、炒める、揚げる……必要に応じて使い分けるわけです。ウェッジは、フルショットだけではなく色々と使いたいクラブであり、使わなければならない用具です。まさに、フライパンだと思えてくるのです。

ほとんどの料理は、電子レンジで調理が可能です。それができない部分を補うのが、フライパンの役割です。料理名人は、フライパンを上手に使いこなして調理をします。電子レンジも巧みに使うのは当たり前ですが、ちょっと違うと感心する部分でフライパンを使って、技術を発揮するような気がします。

さて、「ウェッジ=フライパン」のような感じで説明をしましたが、色々な用途に使って、自分だけの味付けや仕上げができるフライパンがあっても良いと思うのです。

ウェッジはスコアメイクに直結するショートゲームで使えるのでわかりやすい例ですけど、ゴルファーによっては、8番アイアンで多様なランニングアプローチをすることが得意なケースもあるでしょうし、フェアウェイウッドで色々なボールを打ち分けるのに自信がある人もいるかもしれません。ゴルファーの数だけ、“秘密のハウツー”は用意されています。

多数決ではなく、プロの真似でもなく、正解は自分だけの選択や方法しかないということがゴルフではよくあります。だからこそ、ゴルフは自らが審判なのです。フライパンを使って、凄い料理をさり気なく作ってみせるようなゴルフを目指すのも楽しいものです。

ゴルフ史最初のヒーローゴルファーであるアラン・ロバートソンは、死してなお、ゴルファーたちにメッセージを送り続けています。それを受け取るのも、無視するのも自由です。

『自分だけの“FLY PAN”でゴルフを極めろ!』

聞こえてくるような気がしてなりません。

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