ゴルフクラブを身体の一部のように使える秘密の呪文を知っていますか?/誰かに話したくなるおもしろゴルフ話
- 2020.02.20
- 知識向上
初心者にゴルフを教えるとき、またはゴルファー同士でゴルフクラブの説明をするときに、ヘッドやフェースというような用語を使わないのは至難の業です。
例えば、クラブヘッドを別の言葉で説明してみようと考えてみてください。
「クラブの先っぽについているところが……」
「ボールを打つための丸かったり、平らな形をした部分が……」
面倒臭さに気が遠くなります。
ゴルフクラブの部位の名称は、身体の一部に例えられています。他に用語がないこともあってさり気なく使っていますけれど、考えてみるとちょっと不思議な感じがしてきます。
もっと専門的な用語があったはずなのに、現在には伝わっていません。面白そうな豆知識を紹介しながら、色々と考えてみましょう。
ゴルフは肩の上でするゲーム
「ヘッド(head)」は頭のことです。ゴルフクラブでボールを打つためについている部分全体のことです。ゴルフクラブはヘッドとシャフトとグリップで構成されていますが、最も重要な部分ともいえます。重要な部分だから頭、というわけではないようです。
いつ頃からこの部分をヘッドと呼ぶようになったのかは、定かではありません。ただ、18世紀頃にはヘッドを始めとした身体の部位をクラブ用語として使用する習慣は定着していたようです。
諸説ありますが、見た目でわかりやすいことがゴルフクラブ用語が身体の一部を使うきっかけになったのであろうと考えられています。改めてゴルフクラブを見ると、指人形のようにヘッドは頭のように見えてきます。
クラブの頭をヘッドと呼ぶようになった頃、クラブヘッドの大部分は木製で作られたウッドでした。形状は、現在のユーティリティーのようないわゆる細長い馬面をしていました。
現在、ウッドクラブは名称として残っているだけで、ドライバーもフェアウェイウッドも主な素材は金属です。中は中空なので「昔に比べたらウッドは中身が詰まっていない馬鹿になった」と洒落で話すオールドゴルファーもいます。簡単になることを馬鹿になったと表現するのであれば、まさにその通りです。
ウッドクラブのヘッドはアドレス時に上から見た形状で、丸型と洋梨型に分類されています。
パーシモンがウッドクラブの素材として採用されて数十年でヘッドの形状は馬面ではなく大型になり、丸くなっていきました。簡単に書けば、丸型は丸いヘッドにシャフトが付いているように見えるもので、洋梨型は手元のネック部分が少し絞られていて水滴のような形状に見えるものをいいます。
最近の文献では、上級者は洋梨型を好み、丸型は一般のゴルファー用という説明がされているものが多くなりました。しかし、それは間違いです。20世紀末、日本では丸型のヘッドを作る著名な職人が多くいたこともあって、プロゴルファーや上級者は丸型のヘッドを好んだのです。
欧米では、洋梨型が主流でした。科学や工業的な背景で追求すると、この話は深くて面白いのですけれど、強いて説明せずに言い切ることにします。丸型と洋梨型は好みの問題で、腕前とは無関係というのが正解です。
洋梨型を上級者が好む伝統的な形と説明する人が増えた背景は、欧米のメーカーの金属製のウッドクラブが日本市場にも多く出回ったからです。欧米では昔から洋梨型が主流だったので、メーカーはそれを採用しています。日本のゴルファーは他に代わりがないので、そういう形のものを受け入れたというだけのことなのです。
ウッドクラブのヘッドが木製の頃は、大量生産していても1本1本に個体差がありました。そういう中から好みの1本を見つけることも、ゴルファーの究極の楽しみだったのです。
頭があれば、必ず、顔もあります。打面のことを「フェース(face)」と呼びます。頭が重要か、顔が重要か?恋愛相談のような話になってしまいますが、ゴルフクラブのフェースには、色々な情報が詰まっています。
「ディープフェース」といえば、フェースの上下の長さが長いものをいいます。一般的には、ボールはやや上がりづらくなる傾向があります。ボールを上げやすいゴルフクラブの多くは「シャローフェース」と呼ばれ、フェースの上下の長さが短く、薄いと表現されます。
それ以外にも、目の錯覚を利用する手法も含めて、フェースは様々な機能が表面する場所でもあります。
「イイ顔しているね」
通なゴルファーがゴルフクラブを見て、時々使う褒め言葉です。顔が悪いから使えない、なんていうときもあります。
このときの“顔”は、フェースではないのを知っていますか?構えたときに上から見た様子で、“顔”は判断されます。つまりは、横顔を見て、直感させる弾道のイメージで“顔”は語られるのです。
フェースを正面から見て“顔”の良し悪しを評価しているゴルファーがいたら、知ったかぶっている可哀想な人だと同情してあげましょう。
ヘッドとシャフトの繋ぎ目辺りは、「ネック(neck)」です。首ということになります。人間でも首の骨がずれると大変なことになるように、ネックはあまり注目されませんが、ゴルフクラブにとってとても大事なところなのです。
先程の“顔”の判断基準の中には、ネックも含まれることもありますし、どんなに優秀なヘッドでも、ネック部分に問題があればその機能は十分に発揮されません。
ウッドクラブだけの用語もあります。ヘッドを構えるように置いたときに、最も高くなる部分を「クラウン(crown)」と呼びます。ほとんどの場合、上から見てヘッドの中央部ですが、王冠の意味のクラウンが乗る場所ということなのでしょう。
最近は「コンポジット」と呼ばれる、異なる素材を組み合わせて作ったヘッドが流行の兆しを見せています。クラウンという用語が多用されるのは、こういうクラブを説明するときです。
ゴルフは単なる体力勝負ではなく、経験や戦略などの要素が大切なのだという意味で、大昔から「ゴルフは肩の上でするもの」という格言があります。頭を使ってこそ、ゴルフは面白いということはゴルファーなら誰でも知っています。
そして、もう一つ、ゴルフクラブもヘッドがあるからボールを打てるのです。ヘッドはボールと直接触れることができる唯一の部位なのです。
アシがあるからゴルファーは考える
身体の一部をゴルフクラブの説明に当てはめる用語は、まだまだあります。ゴルフクラブは、ヘッドを地面のほうに向けると足に似ています。そのまま、ゴルフクラブは足だと想定したように用語が当てはめられています。
ヘッドの先端部分を「トウ(toe)」、シャフト寄りの部分を「ヒール(heel)」と呼んでいます。
トウはつま先のことです。つま先立ちで舞うバレリーナの足元にはトウシューズがありますし、サッカーでもつま先でボールを蹴ることをトウキックといいます。ヒールは踵のことです。女性が履くハイヒールは、踵が高くなっていることが一目瞭然です。
ちょっと難しい話ですけど、「ギア効果」と呼ばれる現象がゴルフでは頻繁に起きています。
歯車が左右に2つあったとします。それの歯車の歯を合わせて、右側を時計回りに回転させると、左側は逆時計回りに回転します。用具を使うことが宿命のゴルフの場合、クラブヘッドの動きやフェースの角度とボールの挙動には、自然と歯車のような関係が成り立つことがあり、それをギア効果と呼ぶのです。
トウ側に当たったボールはフック回転になり、ヒール側に当たったボールはスライス回転となることが、代表的なギア効果です。
ボールはディンプルが歯車の歯のように見えますけど、そんなことではなく、ギア効果が最大限に働くためには、クラブヘッドの重心深度やヘッドの挙動のエネルギーの方向やフェースの角度など、複雑な条件が必要です。しかし、19世紀のゴルフクラブ職人は科学の知識ではなく経験からその条件を模索し、ギア効果が科学的にゴルフに入ってくる前にウッドクラブのフェースに膨らみをつけることで、理想的な弾道になるような調整を可能にしていました。
皮肉なことに、現在のゴルファーはギア効果の多くの部分を棒球を打つために上下に利用する前提で設計されたゴルフクラブを使用していますので、トウ側に当たったから逸れて打ち出されたボールが、目標に向かって戻ってくるというような経験はしていない人もいます。
フェースのトウ側にボールが当たれば右にすっぽ抜けて、ヒール側に当たれば左に引っかかってしまう(いずれも、右打ちの場合)というのは、20世紀末まではアイアンのようにフェースに丸みがなく、重心深度が浅いヘッドの残念な結果だったのですが、現在ではウッドでもそういうことが少なからずあります。
ゴルフクラブとしては、総合的には現在のもののほうが優れていますが、なにかを得るために捨てなければならない機能もあるということを、現在のゴルファーは知らずに経験させられているのです。
さて、足に当てはめたゴルフクラブ用語はトウとヒールしかないと思っている人がたくさんいると思いますが、よく使用する用語も身体の一部なんです。
ミスショットの中で、一番嫌われるものが……「シャンク(shank)」です。シャンクは、足のすねのことなのです。
シャンクはクラブのネックなどにボールが当たり、全く狙っていない方向にボールが飛んでいってしまうミスショットで、別称として「ソケット」とも呼びます。ソケットはヘッドとシャフトの繋ぎ目という意味なので、出所は同じというわけです。
シャンクというミスショットは初級者より上級者に多く発生するものですぐに直すのが難しく、連発しやすいという特徴もあって、ゴルファーのメンタルを破壊します。
シャンクという用語が定着したのは、まさにゴルファーにとっても弁慶の泣き所だったからだと考えると、なんとも微笑ましく、先輩ゴルファーのセンスの良さに拍手を贈りたくなります。
愛するほどにクラブは威力を発揮する
最後に、誤解がある用語を紹介しましょう。「ソール(sole)」です。
ゴルフクラブを構えたときに、ヘッドの裏側で地面に向いている部分ソールです。船底の意味でソールだと説明している文献がありますが、ソールは足の裏なのです。
ソールは目立ちませんが、地面にあるボールを打つ場合には強烈な威力を発揮しています。東洋医学では、足の裏にはツボが集中しているということで健康法などが色々ありますが、ゴルフクラブのソールも同じように重要な工夫に溢れているのです。
ソールを足の裏だと知った上でソールを観察すると、気が付かなかった傷があったり、自らの癖を証明するような跡が残っていたりしてハッとすることがあります。
人間の足の形が色々あるように、ソールも色々な種類があります。種類が多いということは、それだけ意味があるというメッセージです。ときには、ドライバーからパターまで全てクラブのソールを観察してみましょう。決して無駄な時間にはならないはずです。
ゴルフクラブの用語は、身体に当てはめたものがたくさんあります。それらを改めて考えてみると、一つの真相に行き着くのです。
そもそも自らの身体に当てはめる時点で、そこにはゴルファーの尋常ではない愛着やシンパシーの存在を感じてしまいます。愛があるから自らの身体に当てはめて表現したと考えれば、全てに納得がいきます。
ゴルフクラブを抱いて寝るというプロゴルファーは、遙か昔から現在まで、たくさんいます。逆にクラブを粗末に扱うゴルファーには、バチが当たったと思わせるような悲劇が起きることもゴルフ史は伝えています。
身体に当てはめたゴルフクラブ用語を定着させたゴルファーの先輩たちは、ゴルフクラブに愛着を持って接することがボールを自在に操ってゴルフを謳歌する近道であり、セオリーでもあると教えてくれていると、僕は考えてしまうのです。
恋愛のハウツーも無限にありますが、ゴルフクラブの愛し方もゴルファーの数だけあります。愛することを競い合ったり、順位をつけることは無意味ですが、ゴルフクラブがゴルファーの愛に応えてくれているかは、ゴルフコースでの結果が教えてくれます。
愛するゴルフクラブを使いこなしてこそ、ゴルファーはゴルフクラブと相思相愛になれるのです。ヘッドを、フェースを、ソールを……お掃除しながら愛でましょう。そういう時間もゴルフの至福の時間なのです。