2016年8月。ナイキがゴルフ事業から撤退するというニュースが世界中を駆け巡りました。

ナイキがゴルフ業界に参入したのは今から20年前の1996年。スタンフォード大学を中退してプロ転向をしたタイガー・ウッズ選手とスポンサー契約をした年まで遡ります。当時、世界中を席巻していたアパレル・フットウエアメーカーと、ゴルフ界のニュー・ヒーローの組み合わせは、まさにセンセーショナルでした。

当時、ナイキの看板スターはNBA(アメリカのプロバスケットボールリーグ)のマイケル・ジョーダン選手でした。彼の使用していたバスケット・ボール・シューズ“エアー・ジョーダン”シリーズは日本でも大ブームとなり、エアー・ジョーダンを履いている中高生が強引にシューズを奪われるという、いわゆる“エアー・ジョーダン狩り”という事件が多発したことを覚えている方も多いことでしょう。

Tiger Woods

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ジョーダン選手が1998年にNBA引退を表明すると同時に、ナイキはメーカーの顔をジョーダン選手からウッズ選手へとスイッチしました。同年、ナイキはゴルフボールの製造を開始。さらに2002年にはクラブの発売を開始することによってメーカーとしてのナイキゴルフの歴史を本格的にスタートさせました。

その後のナイキとタイガー・ウッズ選手の活躍は皆様もご存知の通りです。これからナイキの顔がタイガー・ウッズ選手からローリー・マキロイ選手へと引き継がれるのか?という矢先のゴルフ事業からの撤退に、ゴルフ業界だけではなくスポーツ業界全体が驚きを隠せませんでした。

プロ、アマチュア問わずナイキのクラブやボールを愛用している方は、とても寂しい思いをされていることでしょう。

ナイキとタイガーの歴史をコマーシャルで振り返る

PGA TOUR - 2006 Buick Open - Second Round

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タイガー・ウッズ選手と共に歩んできた20年間、ナイキはゴルフの魅力を時にはコミカルに、そして時にはシリアスにファンへ向けて発信し続けてくれました。ナイキのゴルフ業界への貢献度が大変よく分かる資料として、ここではタイガー・ウッズ選手が出演しているナイキのコマーシャルにスポットを当ててみました。

コマーシャルの中にはゴルフの“歴史”、ゴルフに対する“情熱”、ゴルフの“楽しさ”など、短い時間の中に実にたくさんのメッセージが凝縮されています。なかにはコマーシャルというよりも“ショート・ムービー”と言っても過言ではない、感動の超大作までラインアップされています。涙腺のゆるい方は、ハンカチの用意を、どうぞお忘れなく。

それでは、カウントダウン形式でご紹介して参ります。涙あり笑いありの“タイガー・ウッズ コマーシャル10選”をお楽しみください。

第10位:I am Tiger Woods!

このコマーシャルはタイガー・ウッズ選手が初めてナイキのコマーシャルに出演した、記念すべき第1弾となります。

子供達の声で連呼される「I am Tiger Woods!」というキャッチ・コピーは、当時の子供達の心に強く響きました。コマーシャルの冒頭でのジャック・ニクラウス選手とのツーショットが、世代交代を強く印象付ける作品となりました。

第9位:ちびっ子タイガーが全英オープンで優勝?!

タイガー・ウッズ選手はとても幼い頃から“天才ちびっ子ゴルファー”として人気テレビ番組に出演するなど、大変注目をされていました。しかし、当時テレビを観ていた人やテレビ関係者、さらにはゴルフ業界の人達もウッズ選手がこれほど偉大な選手になると想像していた人が何人いたでしょう。

しかしこのコマーシャルを見るとウッズ選手だけは、幼い頃から将来自分がメジャー大会で優勝する姿を鮮明に脳裏に浮かべる事ができていたのではないかと思えてしまいます。

第8位:タイガーと一緒に練習をすると?!

ナイキはシリアスな内容と、コミカルな内容のコマーシャルを使い分けるのが本当に上手でした。この作品ではゴルフレンジにタイガー・ウッズ選手が現れると、彼のスイングにインスパイアされた後ろの人達が次々と、優雅なクラッシック音楽をバックに、300ヤード越えのショットを放っていくという痛快モノです。

さらに、ウッズ選手がいなくなった途端に魔法が解けて、元の自分に皆が戻ってしまうところで「あるある!」と皆がつぶやいてしまう傑作です!

第7位:2005年マスターズ最終日の16番ホールをそのまま?!

これまで幾度となくエキサイティングなドラマを生み出してきた、オーガスタの16番ホール、パー3。タイガー・ウッズ選手が最終日の16番ホールで魅せた、神懸り的なアプローチの場面をノーカットでコマーシャルにしてしまうという斬新なもの。

バックに流れる壮大なクラッシック“レクイエム・フォー・ドリーム(夢へのレクイエム)”が、最後の一転がりを後押ししているようにさえ見えてしまいます。カップインする直前、画面いっぱいに映るボールにプリントされた“スウォッシュ・ライン(ナイキのトレードマーク)”が強く印象に残ります。

第6位:ソーリー!

次はコミカルな作品です。ナイキが発売した新しいドライバーが“飛びすぎる”という内容。いつもの自分の飛距離ならば絶対に届かないと思って打った球が、前の組への打ち込みに!

思わず出る言葉は「ソーリー!(ごめんね!)」です。最初は飛びすぎた打球に驚いていたゴルファー達も、後半になるにつれて確信犯になってしまうというもの。でも、タイガーに打ち込んだら「ソーリー」では済みませんよ!

第5位:No cup is safe(安全なカップなどない)!

2013年に公開された、タイガー・ウッズ選手とローリー・マキロイ選手の夢の競演です。当時、マキロイ選手は23歳でしたが、すでにメジャー大会を2つ(2011年の全米オープン、2012年のPGA選手権)に勝っており、次世代のスターとして注目されていました。

逆にウッズ選手はこの年、腰のケガが悪化して長い低迷期を迎えていました。内容もウッズ選手をマキロイ選手がおじさん扱いするというシニカルなものになっています。新旧2人のスーパー・スターに狙われたら、安全なカップなどあるはずありませんよね!

第4位:The sports of golf

タイガー・ウッズ選手は言いました「I treat golf as a sport. I let other people treat it like a hobby(私にとってゴルフは競技だが、他の人にとってゴルフは楽しい趣味であって欲しい)」そんなウッズ選手の気持ちの入ったコマーシャルです。

ゴルフも他のスポーツ同様とても厳しい戦いなのです!パットを外したウッズ選手は10カウント以内に立ち上がれるのか!

第3位:Eye of the Tiger

こちらの作品は筆者が一番印象に残っているコマーシャルとなります。

2013年にケガで長い間試合から遠ざかっていたウッズ選手ですが2014年、約7ヶ月ぶりに全英オープンで復活を果しました。その後もケガに悩まされ完全復活とはいきませんでしたが、当時のタイガー復帰を熱望していたファンにとっては、胸が躍るような気持ちになるコマーシャルだったのです。

ウッズ選手が口笛で奏でる“アイ・オブ・ザ・タイガー”に彼の強い決意を感じました。最後に映し出される「He’s back」のキャプションはいつ見ても、当時を思いだして興奮してしまいます。

第2位:タイガー&アーノルド?!

今回はナイキのコマーシャル特集ですが、1本だけ「番外編」としてランクインをお許しいただきたい作品があります。こちらは、タイガー・ウッズ選手と、先日惜しくも87歳で他界されたゴルフ界のレジェンド、アーノルド・パーマー氏が競演している楽しいコマーシャルです。

悪党たちが、2人の獲得したメジャー大会のトロフィーを奪うため、大勢でウッズ選手とパーマー氏を急襲します。しかし、最強の2人がそう簡単にトロフィーを奪われるはずがありません。

ところが最後に強敵が現れます!その相手にはタイガーを制してアーノルドが挑みますが、かなりの強敵です!この大ピンチに、あの往年の名選手が助っ人として現れます!

その名選手とは?!ちなみに、これはゲームのコマーシャルです。

第1位:Ripple(波紋)

2015年のマスターズ開催に合わせて、ナイキが公開したショート・ムービーが「Ripple(波紋)」です。

“Ripple”とは水面に落ちた雫によって、湖面に広がってゆく波紋のこと。テレビ画面には1994年の全米アマチュア選手権で優勝を遂げたタイガー・ウッズ選手の姿が映し出されています。そして、そのウッズ選手を強く脳裏に焼き付けた5歳の少年がいました。その少年こそローリー・マキロイ選手なのです。

マキロイ選手はその時の感動を「今でも鮮明に覚えている」と語っています。ウッズ選手がマキロイ少年の心に落とした小さな雫は、どこまで大きな波紋となって広がっていったのでしょう。

まとめ

93rd PGA Championship

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今回、改めてナイキの軌跡をコマーシャルという媒体を通して振り返ってみましたが、いかがでしたでしょうか。

冒頭でウッズ選手とニクラウス選手の世代交代に触れましたが、ウッズ選手の心に雫を落としたのは、誰あろうニクラウス選手だったのです。偉大な選手の背中を追って、次の選手が育ってゆく。こうやって、歴史は創られてゆくのでしょう。

考えてみれば自身のゴルフ歴もナイキのゴルフ事業と同じ20年。あの頃のゴルフに対する情熱のようなモノは、かなり熟成されてしまい少し違った形になってしまったように思います。

しかしナイキが筆者の心に落とした雫の波紋は、今も心の湖面を広がり続けています。

(完)